デヴィッド・グレーバー『ブルシット・ジョブ クソどうでもいい仕事の理論』は世界的ベストセラーとなった。翻訳者の一人である酒井隆史さんは「ブルシット・ジョブの主要5類型の1つ、“尻拭い”は、日本に深刻なレベルで頻発しているはずだ」という――。

※本稿は、酒井隆史『ブルシット・ジョブの謎 クソどうでもいい仕事はなぜ増えるか』(講談社現代新書)の一部を再編集したものです。

うまく機能しないアジアとラテンのビジネスの人々
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ブルシット・ジョブとは
BSJとは、被雇用者本人でさえ、その存在を正当化しがたいほど、完璧に無意味で、不必要で、有害でさえある有償の雇用の形態である。とはいえ、その雇用条件の一環として、被雇用者は、そうではないととりつくろわねばならないと感じている――。

無能な目上の人間の「尻ぬぐい」という仕事

原文では、duct tapers。ガムテープのような補修テープを意味するのですが、ソフトウェア産業で、補修作業についてこの言葉が用いられていたようです。

要するに、ダクト・テーパーとは「尻ぬぐい」であって、「組織のなかに欠陥が存在しているためにその仕事が存在しているにすぎない被雇用者」のことです。

「組織のなかの欠陥」には、目上の人間の不注意や無能もあてはまります。

中小企業で働く、マグダという人物の証言があがっています。それによれば、マグダは「テスター」なる役割を引き受けていたようなのですが、その仕事は「花形気取りの統計調査員」が作成した報告書の校正でした。その統計調査員は、統計をよく理解しておらず、かつ文章もひどかった。ところが、修正にもなかなか応じてくれない。そこでマグダは苦しんでいるのです。