一人のために組織全体で尻ぬぐいをするケースも

ただ、これは一人の人間の欠陥に一人の部下が苦労するという例ですが、もうひとつ、一人の人間の欠陥を部署全体で尻ぬぐいするといった事例もあげられています。

精神科医でもある社長の経営する会社にプログラマーとして雇われたヌーリの事例です。

この社長は科学革命家の幻想に酔っていて、人間の発話を再現する「アルゴリズム」を開発するという目標にむかって邁進しています。ところが……。

その会社を設立した「天才」が、このウィーンの心理学者で、「アルゴリズム」を発見したとのたまっている人物です。

何カ月ものあいだ、そのアルゴリズムを、かれはけっしてみせようとしませんでした。

なのでここに書くのは、それを使ったプログラムの話です。

その心理学者のプログラムは、妥当な結果をあげることに失敗しつづけました。典型的なパターンはこうです。

・かれのプログラムが、バカバカしいほど基本的な文章で停止してしまうのをわたしが指摘する。
・かれは「あれ……変だなぁ……」と眉をひそめ、まるでわたしがそのデス・スター[『スターウォーズ』にでてくる難攻不落な要塞]の取るに足りない弱点でもみつけたみたいに戸惑った顔をみせる。
・二時間ほど、穴蔵みたいな自室にこもって姿を消す。
・バグを解決したと勝ち誇って登場―「今度こそ完璧だ!」。
・ふりだしに戻る

こうした一人の人間の奇矯なるふるまいの後始末を部署全体がやっています。発話を再現するアルゴリズムなどできないことを隠すために、ごくシンプルな発話を模倣するプログラムを作成し、それによって、この会社の内実が漏れるのを阻止しているのです。

ソフトウェア開発
写真=iStock.com/metamorworks
※写真はイメージです

組織規模での尻ぬぐいは“構造的欠陥”

基本的に、尻ぬぐいの仕事の多数は、だれもあえて修正しようとしなかったシステム上の欠陥の後始末にあります。手が回らなかったとか、予算が足りなかったとか、人員を減らしたくなかった(部下を減らしたくなかった)とか、組織が混乱しているとか、あるいはその複数とか、いろいろな理由はあります。

その結果、自動化されなかったり、ちぐはぐのままだったり、先ほどみたように不適任者が居座りつづけたりとか、そうした結果が温存されます。それをBSJでカバーするほうが選ばれるのです。社内のネットワーク設備の欠陥がいつまでも修正されることなく、それゆえにウェブベースと紙ベースの二つの作業が並行して存在しながら、仕事が倍加するといった経験など、多くの人がざらに経験しているのではないでしょうか。まさにそれは構造的欠陥の「尻ぬぐい」なのです。