アメリカの異常な住みづらさを凝縮したワンシーン
最後はシーズン5の第8話「早く家へ帰りたい」の冒頭です。
結局、ホームシックにかかってNYに帰ってくるショシャンナでしたが、到着した空港で、動く歩道を走ってきたアメリカ人にぶつかられて怒り心頭。こう叫びます。
「あなたたち、マジ? これ(動く歩道)を降りるまでの短い時間も待てないの? 最低な国ね。マナーなし。あなたたちが自分勝手な人間だから。その態度がまさにそうよ。……なぜ私はここ(アメリカ)に? 何でいるの!」
一連のシーンにはアメリカ人の一般的な20代の若者から見た「東京の魅力」と「アメリカの絶望」が凝縮されているように思います。
ショシャンナが自分の国であるアメリカやアメリカ人を悪く言い、日本(東京)は最高だと絶賛するのは、アメリカのごく普通の若者たちにとって、アメリカ、とりわけ大都市部が異常に住みづらい場所になっているからです。
新進政治家はなぜニューヨークの若者から支持されたか
アメリカの若者が大変生きづらくなっていることを表す一つの大きな現象として、ここ数年、アメリカの特にNYの若者たちの間で最も注目を集めている政治家の存在があげられます。アレクサンドリア・オカシオ=コルテスです。2018年に行われたニューヨーク州第14選挙区予備選挙で、下院議員を10期務めた現職大物候補ジョー・クローリーを破り民主党下院議員となり、2018年米中間選挙最大の番狂わせなどと報じられ、メディアの注目を浴びるようになりました。
彼女は政治家になる前に、高すぎるアメリカの大学の学費ローンを返済するためにウェイトレスやバーテンダーをしていたこともあり、また、「民主的社会主義者(democratic socialist)」を名乗り、格差反対を訴え、アメリカの若者の代弁者ととらえられています。
そんな彼女が最大の番狂わせとして突如登場する程、今、アメリカの若者は大変生きづらくなっているのです。
だから、本国でイケてなかった『GIRLS』のショシャンナは「私は(NYから東京に)逃げて成功した」と言う。その結果、彼女の同僚女性が指摘したように「ゆっくり人生を楽しむことを覚え」ました。彼女にとって東京での暮らしは、現在のアメリカ、特に大都市部の若者には実現できない精神的に豊かな人生の送り場所になったのです。