「野地くん、君は日本人の代表だからね。日本人のジャーナリストには立派な男がいることをポールに見せてやってくれ」

私は振り向き、もう一度彼と向かい合った。永島達司は私が振り向いて彼を見つめるとは思わなかったのだろうか、急に照れたような顔になり、目を伏せた。

「僕は海外の人に会う時には、自分は日本人の代表だと思っていたんだ。なるべく姿勢を良くして、おしゃべりもせず、夜遅くまで遊ぶこともしなかった。酒を飲まないようになったのは人前で乱れた姿を見られることが嫌だったからなんだ」

永島さんはそれくらい立派な人だった。

「僕らはあの時世界で最高のライブバンドだった」

ポールに会って、日本公演のことから日本のウイスキーの話までいろいろしたのだけれど、もっとも覚えているのは次の一節である。

淡々と話をしていたポールが紅潮して、強調したのは「俺たちは世界最高のライブバンドだった」と……。

野地秩嘉『ビートルズを呼んだ男』(小学館文庫)
野地秩嘉『ビートルズを呼んだ男』(小学館文庫)

「日本公演の時の音はよく覚えている。アメリカだったら自分たちが弾いているギターの音も聴こえないくらい、観客は悲鳴をあげっぱなしだし、ステージにジャンプアップしてこようとする客でいっぱいだから。

けれども日本の観客たちはシーンとしていたし、お行儀もよかった。じっと聴いていてくれた。静かに聴いていてくれることがわかってから、やっと僕らもリラックスして演奏できるようになった。

あの時のコンサートは出来がよくないんじゃないか、と言われたことがある。当時はそうかな、そんなもんかな、と自分たち自身の技量を疑ったこともあった。でも、そうじゃない。そんなことはないんだ。あのコンサートはベストだった。ポリス(警官)がいようが、飛行機から降りたばかりだろうが、僕らはベストの演奏をした。僕らはつねにベストの演奏ができるバンドだった。僕らはあの時世界で最高のライブバンドだった。他のどのバンドよりもはるかにプロフェッショナルだった」

この時、わたしは「ローリングストーンズよりもいいライブバンドでしたか?」と聞いたら、彼は当然といった顔つきで「イエス」と答えた。

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