バラエティの“いなし”センスとラジオのトーン

翌朝は、この一連の話をしました。

前日に1時間も温暖化の話をしたけど、オーディションで落とされ、独裁者安住の命令通りに笑える話をします。とやりました。冒頭は、

「おはようございますって言っていいんですかね、この時間帯は微妙ですよね。こんにちはじゃないしね」

と、ポツンとゆっくりとしたテンポで、安住流を完コピはできないまでも、安住っぽくやんなきゃと。

ラジオ番組収録中のゲストとホスト
写真=iStock.com/Pichsakul Promrungsee
※写真はイメージです

ラジオ終わりに、安住君から「ありがとうございました」ってLINEが来て、大阪で他のアナウンサーとかじりついて聞いていましたと。

「さすが、兄さんは素晴らしい。冒頭からトーンが違う。兄さんのことだから、ピンチヒッターなんて関係ない。聞いている人が違和感を感じるくらいペラペラしゃべっちゃうかなと思ったら、トーンが落ち着いていて、やる気ないのかな? と思うぐらいしっとりと入った。すごいですね」

みたいに言われたんです。遅まきながらわかりました。安住君は、トーンを大切にしていたんですね。

アーティストから、

「メロディーじゃないんだよ、古舘さん。そのあたりはビートなのよ」

と言われて僕はよくわからないことがあるんですが、要はそれと同じですね。

安住君はトーンなんですよ。

テレビの時は、どういなすか、どう意地悪を言うか、どう気遣うか、どうヨイショするか、どうさばくか考えて完全にMCに徹しています。トーンじゃない。

ところがラジオのMCとなると、トーンがすべて。

日曜の午前中、平日と違って寝ぼけまなこの状態でラジオのスイッチをオンにしたら、しっとりとしたトーンの安住君の声が流れる。「起きろ、起きろ」じゃダメなんですよ。「脳なんか、起きなくてもいいですよ」ってトーン。「コーヒー入れる?」ってトーン。

だから日曜天国は長く続いている。

聞いている方は脳内天国になれるんです。

飛沫飛ばし野郎の逆にある“のむ”声

安住君は、あらゆる女性層から好かれているイメージがありますよね。

あんな甥っ子がいてほしい。こういう息子がいてほしい。姉さん女房になるけど結婚したい。幼妻になるけど結婚したい、などなど。

そう思わせる理由の一つに、比較的“のみ声”だっていうのがあると思います。

“のみ声”ってわかりますか? 森本レオさんのナレーションが、典型的な“のみ声”です。

「こんなお店があったら驚いてしまいますよね。入った瞬間ににおい立つビーフシチューの香り。そしてまたコーヒーを注ぐ音」

要するに、発声して、息を前に出してるのに飛沫の一滴も出さない感じで話すんです。

NHKの局アナで『ニュースウォッチ9』をやっていた井上あさひさんものみ声です。僕のような飛沫飛ばし野郎の逆に“のむ”声があります。あんまり、発声を前に前に押し出さない。

「今日の衆議院本会議において、次のような話題になりました」

と話しながら、どんどん引いていく。聞いている方は気持ちよくなって吸い込まれていく。ちゃんと伝わるような滑舌をもってして“のみ声”にしていくと、聴く鎮静剤のようになります。