日本の未来は、現在の延長では描ききれません。「労働生産性最大化」は、2つの意味で立ち行かなくなりました。一つは、環境問題。無限の資源を前提に生産性を考えることは、できなくなりました。もう一つは、新興国の台頭です。日本の生活レベルの向上による賃金上昇は、新興国とは比べものにならないくらいに、労働生産性を下げてしまいました。しかし、このことは悲観すべきことではありません。むしろ、「やっと本来の知的資本への注目に戻れる」と前向きに捉えていきたいと思います。
知的資本に着目した成長戦略を描くのであれば、生産性を高めるための賃金カットを考えてはなりません。賃金を下げる、つまり労働者の価値が下がるということは、知的資本の低下を意味します。むしろ、賃金が高く払える仕事に、自社の事業をシフトしていかなければなりません。
自国、自社に閉じたプロセスは、捨てていかなければなりません。P&G社がコネクト&デベロップという戦略を打ち出し、自社の技術課題を公開し、解決法を公募する斬新なやり方でイノベーションのスピードを向上させたことは有名です。自社の強みを持つことはもちろん大事ですが、産業を超えた異業種との対話、セクターを越えた政府やNPOとの対話、さらには国や文化を超えた対話から、新たな価値を発想することにより、知的資本の一つである関係性資本を豊かにしていくことができます。
このような状況は、もちろん政府にとっての大きな課題ではあるのですが、しばらくは目をつぶっていても、多くなりすぎた企業の再編などで何とかなるのではないかと淡い希望を持ちたくなるくらいに、日本の国内市場はまだまだ大きいです。しかし、日本国内の各企業にとってか閉じたプロセスから脱却することは喫緊の重要課題になってきています。「グローバル化とイノベーションに成功しなければ、明日はない」、とばかりに多くの企業が危機感を強めているのです。このことが、企業のフューチャーセンターに対する感度の高さにつながっていることは、疑いがありません。
さあ、日本はこの状況をどのように乗り越えていくのでしょうか。
賃金の高い仕事を作ること、外部との関係性を豊かにすること、という知的資本経営の原則を貫くことで、未来の資本を高めていくことができます。そして未来の資本を潜在能力から、ビジネス成果として顕在化させるためのファクターが、経営戦略としての「未来創造戦略」になります。それを支える中核機能が、「フューチャーセンター」です。未来創造戦略については、次回述べたいと思います。
日本は、労働生産性最大化の神話を手放し、未来創造戦略に大きく舵を切るときです。すでに、あらゆる産業、あらゆるセクターで、気づいた人が舵を切り始めています。まだそれらの活動は点在しているに過ぎませんが、近いうちにネットワークし、多数派になっていくことでしょう。
今度こそ、日本が知的に精神的に、本当に豊かになるときです。
それが国民総幸福量を高めることにもなるに違いありません。