オランダの話に戻りましょう。政党が主張をぶつけ合うときには、未来シナリオを明確に示した上で、「だから我々はこう行動する」とマニフェストを訴えるそうです。そして、各省庁は自らのドメイン毎に、未来シナリオを具体化していきます。このような形で、全体最適に沿った一貫性ある施策の実施が可能になるのです。

「未来シナリオ」と並んで、フューチャーセンターの大きな役割は、「創造性と直観力」を高めることです。

オランダの国税庁の持つShipyard、同じくオランダの治水交通省の持つLEFという2つのフューチャーセンターは、どちらも「創造性と直観力」に重きを置いています。では、どのようにすれば「創造性と直観力」が高められるのでしょうか。この2つのフューチャーセンターが力を入れているのが、「マインドセットを変える」ということです。いわゆる「お役所的発想」を取り払い、「複雑な問題に対して創造的にアプローチする」ために、ファシリテータの力はもちろんのこと、発想転換のための映像を見ることによる効果、ブレインストーミングの専用空間、ブレインスティルという内省の専用空間など、物理的環境の及ぼす効果を徹底追究しています。

デンマーク政府も、創造性と直観力に力を入れた、MindLabというフューチャーセンターを持っています。ここは、まさに「政府所有のIDEO」と言えるようなフューチャーセンターです。デザイン思考のアプローチで、非常に広い意味でのデザインの力を社会イノベーションに役立てます。若手の起業家支援から、国税庁のシステム導入のU/Iデザイン、さらには産業振興の支援まで、ありとあらゆるイノベーションプロジェクトを手がけています。たとえば、養豚牧場とスーパーマーケットの観察調査から、ポークの製造/加工/流通/販売にわたって必要なルールは何か、どんな法整備が有効なのか、といったサービス・イノベーションの提言を行ったりもします。こんなイノベーション組織が政府にあるなんて、とても素敵じゃありませんか?

日本も、天然資源の少ない国です。ですから知的資本に注目し、高めていく必要があります。にもかかわらず、高度成長期の間、私たちは世界中の資源を買ってきて、知的に加工し、それを世界中に売りまくるという「労働生産性最大化」に邁進してきました。私たちの知識は、「買ってきた資源を加工する」ところにのみ使われたのです。ですから、そこから得た利益の使い途、つまり「どのような社会を創っていくか」というモデルはつねに、「先進国の後追い」に終始してきました。その結果、「問題を与えれば解くのは最高にうまい」が、「自ら問題提起することが苦手」という状況に自らを追い込んできてしまったのです。