他にも、上手いなと思ったのは、司会っぽくないフリをフェイクで入れてくるところ。
プロレスの実況中継をやっていた時、僕のしゃべりは「古舘節」と言われていました。それ関連の話は出るだろうと思っていたけど、それを「あの古舘節って、どこから来たんですか?」と直球で聞かれたら、少なからず僕自身の歴史を話さなきゃいけなくなるじゃないですか。
でもそれだと番組の主旨、ファミリーのヒストリーからずれてしまいますよね。だけどそこは、今田君は上手い。
「古舘さんって、何でも描写できるし抜群に上手いけど」
え、まさか実況の話をストレートにしてくる? と一瞬緊張させておいて、
「あれ、どっから来ているかといったら、やっぱり親戚とかおじいちゃん、おばあちゃんとかに、そういう上手い人がいたってことですか?」
みたいな感じで聞いてくれたんです。
一瞬緊張させて、「親族に誰かそういう人いました?」って包んでくる。ここで司会の逆転が起きるんですよ。僕があたかも司会者のように、
「え? それを今日はこの番組でやってくれるんですよね? 『ファミリーヒストリー』なんだから」と返す。すると、今田さんが、
「もちろんやりますよ」
こんなやりとり、アナウンサー系の司会者なら、絶対に起きません。
滅私状態から急に胸襟開いて自分を出す
もう一つ、今田君の司会で感心したのは、自分を出すべきところではちゃんと出すところです。
番組が中ほどまでいい感じで進んだ時、僕ら世代の司会者であれば、「いやー、おじいちゃんもお父様もこれだけ苦労されて、ずっと外地でやって、何といっても戦争があって、こういういきさつがあったんですね」みたいな、もう1回返すっていう定番があるんですが、今田君はそれを端折る。
「マニラの港に向かう途中、敵方の魚雷が発射されて、これ空砲で船に当たったから、お父さん死なないで済んだんですね。うちの親父もそうなんですわ」
司会を放棄して自分の話をするんです。すると2人で「同じじゃないですか。空砲同士なんだ。だから我々は生まれてきたんだ」って親近感が生まれる。
この出しどころが上手いんですよ。それまでは滅私状態だったのに、急にウワッて胸襟開いて自分を出すから、こっちも出せる。
この人なりの起承転結があるんだなと思って感心しました。