お笑い芸人の西野亮廣さんの絵本『えんとつ町のプペル』が、エンタメ作品として大成功している。絵本は累計70万部を突破。自身が製作総指揮を務めた同名の映画は、国内で170万人動員、興行収入24億円。さらにカタールのアジャル映画祭ではMohaq部門 最優秀長編映画賞を受賞した。西野さんの次の狙いを本人に聞いた――。(後編/全2回)
西野亮廣氏
撮影=森本真哉

世界戦では国内マーケティングは通用しない

——映画『えんとつ町のプペル』は最初から世界展開を狙ってつくられたわけですが、どのようなことに留意しましたか?

【西野】「商品」と「作品」の違いを明確にすると分かりやすいかもしれません。お客さんのニーズの奴隷になっているものが「商品」で、作家の衝動の奴隷になっているものが「作品」です。

いずれにしてもお客さんに届けないと食っていかないので、マーケティングは挟まってくるのですが、それで言うと、先にマーケティングがあるものが「商品」で、後にマーケティングがあるものが「作品」と言えるかもしれません。

そして海外展開を狙うなら「作品」に手を出さなきゃいけない。

たとえば、実写版の映画なら、企画段階で「人気イケメン俳優と人気美人女優をキャスティングする」という話になりがちですが、世界に持っていった場合、背の低い日本人のイケメン俳優には、なかなか興味を示してもらえない。日本のマーケティングは、万国共通語ではないということです。さらにマーケティングを優先してしまうと、クリエイティブが二の次になって中途半端なものができる。だから、負けてしまう。

だから、国内でヒットするアニメーション映画のセオリーがあったとしても、そんなものは全無視して、極めてエゴを詰め込んでつくりました。イケメンも出てこなけりゃ、恋愛もない。誰の原風景でもない「えんとつ町」が舞台で、誰も共感する事ができない「ゴミ人間」の物語。「さあ、このままだと絶対に売れないぞ」というところからのスタートです(笑)。

——でも、西野さんはその作品をヒットさせました。どのように届けたのですか?

【西野】それは、もういろんな手を使って届けました。それこそ、僕が運営するオンラインサロン「西野亮廣エンタメ研究所」のなかでは制作過程を見せて。

目標にしたのは、オープニングタイトルが出た瞬間に泣く人をたくさんつくることでした。

娘のピアノの発表会で、舞台袖から出てきた瞬間に泣いてしまうみたいなことです。親は、ここに至るまでの成長の記録を重ねて涙している。映画をその状態に持っていこうとしたら、制作過程をバンバン出す。現時点での作品の絶望的な認知度もサロンメンバーさんと共有して、「このままでは大コケする」というところから知ってもらって、どうやって届けるんだっけって考えるところも共有しました。

その結果を見届けようと劇場に足を運んでいただいた人が、ある一定の人数まで達したら、その周辺の人たちにも作品が見つかるようになります。それが、たしかな強度を持った作品なのであれば、見つかりさえすれば、あとは大丈夫。

一度、見つけてもらうってことがめちゃくちゃ大事で、日本では「いい作品がただ見つかっていないだけ」ということが本当に多いと思います。

▼新作歌舞伎『プペル~天明の護美人間~』

新作歌舞伎『プペル~天明の護美人間~』

2022年1月3日(月)から20日(木)まで、新橋演舞場で、新作歌舞伎『プペル~天明の護美人間~』が上演される。出演は市川海老蔵、市川 ぼたん(交互出演)、堀越 勸玄(交互出演)ほか、原作・脚本は西野亮廣、演出は藤間勘十郎。詳細はこちら