何十年もかけて作品をアップデートさせる

——クリエイティブと届ける作業の両方ができて、はじめて世界に届くのですね。

【西野】はい。本来、クリエイティブに全振りした作品は、コアファンくらいにしか届かないのですが、そこをなんとかしてお客さんを呼ぶ。メガヒットを作り出すことはできませんが、プチヒットは知識と根性でいけます。そして、それを名刺代わりに世界へ持っていく。この流れをつくることが大事なんだと思います。

あと、アップデートですね。

——アップデート?

【西野】継ぎ足しです。

新作をつくるのではなく、ひとつの作品をアップデートしていく。コアファンは新作を期待しますが、その期待に応えて新作ばっかりつくっていくと、「同じコアファンに違うネタを出している」の連続で、裾野が広がっていかない。裾野を広げるには、同じ作品をアップデートさせていく事が重要だと思います。「えんとつ町のプペル」なら、絵本から映画、ミュージカル、歌舞伎と転々とし、その都度、アップデートしていますが、そうやってお客さんを広げていく。

ブロードウエイのミュージカルを見るとわかりやすくて、まずはワークショップのようなことをして、お客さんの前で上演してしまう。次にリーディング公演があって、本読みを見せる。それでお客さんの反応を見て、アップデートして、その次にまたプレ公演があってという具合に、ずっとやっているけど「新作」といっている。新作をつくるのに、何年も、何年もかけているんです。

だけど、これを日本でやると、「同じネタに何年しがんどんねん」となる。でも、基本的に僕が見た限り、同じネタにしがむことを覚悟したエンタメしか世界を獲っていません。

新作でいきなり「世界1位です」なんて聞いたことがなくて、「ライオンキング」にしても、「ストンプ」にしても、何十年もやっている。そうして何十年もアップデートされ続けたものと、日本の新作が同じ商品棚に並べられる。

結果は言うまでもありません。

新作至上主義で疲弊する日本

——なるほど。日本では、常にまったく新しいものが求められるんですね。

【西野】これも日本人の気質かもしれないのですが、「0→1」をつくる新作信仰が強い。新作至上主義なんです。

建物とかも、日本では新築がもっとも価値が高い。でも、ヨーロッパでは年数が経った建物のほうが価値は高くなるケースが少なくありません。50年もったということは、100年もつのではないかというように、経過した時間が信頼に変わる。だけど、日本は「とにかく新しいものが素晴らしい」という考えです。

日本の環境が関係しているのかもしれません。台風や地震とかでおじゃんになってしまうので、「0→1」をずっとやり続けてこないといけなかった。

新作信仰だと予算の回収を急ぎすぎるという弊害もあります。10年かけて回収していくという発想になっていないので、スケールの大きなものがつくれない。すぐに回収しないといけないとなると、セット費も衣装費もかけられなくなるので。

ミュージカル「えんとつ町のプペル」
©CHIMNEY TOWN
ミュージカル「えんとつ町のプペル」

ファミリーミュージカル「えんとつ町のプペル」では、セットや衣装も妥協せずに作りこみました。その結果、上演期間(2021年11月14日~28日)は全席完売しましたが現時点では1億円以上の赤字です(笑)。だけど、それは想定済みで、そもそも上演期間だけで回収しようと思っていないので問題ありません。オンライン配信チケットを売り続けていて(※現時点で1万枚以上を販売)、このままいけば余裕で回収できそうです。

「えんとつ町」の世界観がつくりこまれた舞台セット
©CHIMNEY TOWN
「えんとつ町」の世界観がつくりこまれた舞台セット