1時間前
当日も、そのテンションは変わらない。
「そのときそのときの条件下でできる最大限のことを積み重ねてきたと思っているから、それを一番いい見せ方をしてあげることが大切だと考えています」
開始時刻を前に、会場には徐々に報道陣が集まってくる。その入り具合を横目に、舞台裏でいったい何をしているのか。
「恥ずかしいんですが……会場になっている舞台の袖とか、人に見られないところで、顔の筋肉をギューッと寄せたり、ガーッと引っ張ったり、逆に緩めたり。表情豊かに、かつスムーズにしゃべって、聞いている記者さんにとって、楽しいプレゼンだったと思っていただければ」
直前の30分は、最後の最後まで頭の中でシミュレートを繰り返す。「皆様こんにちは」と切り出すあたりまでが緊張のピークだろう。
「でも、第一声が出てしまえば、緊張はスーっとなくなって、あとは舞台の上から記者さんたちの反応を楽しんでしまいます。メモを取っているところとか、写真を撮るタイミングとか、納得した顔で聞いていただいているな、とか」
その間わずか10分、長くても30分程度。凝縮した時間の中で、スポットライトを浴びつつ、思いをMAXで伝える。最も高揚する場面の一つであろう。
「特に頑張ったという感覚はないんですが、その日の晩は疲れを感じます。パブリシティを終えると、ああ、全速で走っていたんだなと改めて思います」
しかし、そこはゴールではない。
「パブリシティは商品を世の中に受け容れてもらい、育てていくための皮切り。発売後、何カ月も売っていく中で、やはりお客様に喜んでいただくためのスタート地点だという思いはあります」
翌日からまた、新たな“締め切り”に向けての疾走が始まるのである。
(小原孝博=撮影)