1週間前

プロジェクトリーダーであるだけに、小杉氏の仕事は商品について世の中に伝えることだけでなく、商品そのもののつくり込みにも密接に関わる。宣伝・プロモーションを行うメンバーや、販売店と商談を進める営業担当らを束ねて「どう売るか」を常に考えつつ、工場にたびたび出向いて、開発部門とともに段ボール製のモデルをつくって、前に立ったりドアを開けてみたりして、ベストな形やサイズを模索したり。「毎日が正念場」(小杉氏)のハードな日々である。

しかしパブリシティの1カ月前、小杉氏はいったんクールダウンする。

「私にとって大切なことなんですが、一度冷静になって、マーケッターとしての視点と一消費者としての視点の両方をあえて思い出します。どちらに偏ってもダメ。『売れればいい』という考えもダメだし、お客様がこれを欲しがっているから、じゃああげます、というだけでも面白くない。ずっと1年、2年かけてつくってきた商品を、改めてお客様側から見て本当に喜ばれるか、本当に生活をいい方向、楽しい方向に変えられるか、あるいは市場に与えるインパクトなどを改めて意識しています」

入社以来22冊溜まった「やることリスト」のA5ノートと、「何でもぐちゃぐちゃ書く」(小杉氏)小さめのノート。

そのために、2種類のノートを使い分けている。一つはA5ノートにその日やることを個条書きで書き込む「やることリスト」。入社以来ほぼ1日1ページを費やしたA5ノートは、これまでで22冊に上る。なるべく雑務に頭を使わずに、「未来の商品について夢を膨らませるという、本質的な仕事に使う時間を増やす」ためのツールだ。

「本質的な仕事」は、さらにサイズの小さい「何でもノート」の役目だ。思いつくままにキーワードを書きつつ、漠然と頭の中にあるものを伝えるのに最適なプレゼンストーリーを考える。この「何でもノート」がフル稼働を始めるのが、パブリシティの1週間前だ。通勤時の電車の中での過ごし方がガラリと変わる。

「電車の中でノートを開いて、プレゼンの内容を頭の中で最初から最後まで何度も反復して整理します。原稿を読むのではなく、自分の言葉でしっかり伝わるプレゼンにしたい。この言葉遣いでは間違って伝わるのでは? とか、例えば『○○だと思います』『○○だと思います』ばかり言うより、一回ぐらい『確信しています』『○○に違いありません』と断定するだけで相手には強く聞こえるんじゃないか、などと一言一句に気を配っています」