中国全土200カ所で6000頭を飼育していた「トラ牧場」

なるほど、野生動物の密猟はリスクが高い。ならば人工繁殖してしまえ、と考えるのが中国人の起業魂だ。こうしてできたビジネスの一つが「トラ牧場」だ。

2017年時点で中国全土に200カ所、6000頭ものトラが飼育されていたという。先のとおりトラで商売はできない。そこで、絶滅を防ぐべく繁殖基地を設立し、基地を維持する財源として、不慮の事故で死んだトラの部位を販売する……という、とんちのような名目でビジネスが行われてきた。

トラ牧場があれば、クマ農場も存在する。農場と名乗るのは、クマは食肉ではなく、珍重される漢方薬・熊胆くまのいの採取を目的としているためだ。檻にいれたクマにカテーテルをつなげ、生きたまま胆汁を採取するのである。北朝鮮で発明された手法と言われるが、その後中国で大々的に広まった。

あまりにも残酷だと中国国内からの批判も強く、伝統中国薬の製造企業で1000頭以上のクマを飼育する帰真堂薬業は、抗議活動によって2012年に予定していた上場を撤回したほどだ。

ちなみに、中国では2003年に商業利用のための人工繁殖を認められた野生動物のリストが制定されている。54種の動物が掲載されているが、トラやクマは入っていない。トラ牧場もクマ農場も合法的な商売とは言いがたいわけだ。

感染症の原因となった動物も人工繁殖が認められている

掲載されているのはイノシシやダチョウといったわかりやすいところから、クジャクなどの鳥、ワニやスッポン、カエル、さらにはサソリやムカデといった昆虫や節足動物も入っている。興味深いのはハクビシンがこのリストに入っている点だ。

というのも、2002年から翌年にかけて中国で流行したSARSは、もともとコウモリが持っていたコロナウイルスが人間に感染するよう変異することで広まったが、コウモリから人間に直接伝染するのではなく、ハクビシンが中間宿主として介在したとされる。

ハクビシン
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そして新型コロナウイルスのCOVID-19もセンザンコウが中間宿主だった可能性が示されている。長期にわたり大量に食されてきた牛、ブタなどは生態が熟知され感染病リスクに関する知見も多い。一方、ハクビシンなど家畜化されなかった動物はまだ不明なことも多く、人間との接触機会が増えることで新たな病気が生まれかねない。

SARS流行後に制定された、人工繁殖認可リストにハクビシンが入っているのはさすがにまずいと、各地方で暫定的に繁殖禁止にしたが、これもいつの間にかなし崩し的に養殖が広がってしまった。SARSという大きな教訓があったにもかかわらず、同じ過ちを犯しているわけだ。