動物園で死んだ動物の肉を提供するレストランもあった

「さすがにゾウやオランウータンは食べられなかったけど、シマウマは食べたよ」

そう教えてくれたのは、あるカナダ人の大学教員だ。1980年代には北京動物園の近くに、死んだ動物の肉をこっそりと提供するレストランがあったのだという。にわかには信じがたいが、実は2010年にもクジャク肉やカンガルー肉を提供する野味レストランが園内にあると話題になった。

目だけではなく胃袋でも動物とふれあう……。さすがに悪趣味だとして中国でも批判されたが、かなりの高級レストランで、それなりの客を集めていたという。公然と主張はしづらいが、野味好きは少なくないのだ。

なぜ、野味好きが多いのか。珍しい肉を食べてみたいという好奇心だけではない。中国伝統医学には「補品」という概念がある。

食材に応じた健康が得られるという発想で、肝臓が悪い時はレバーを食べればいいし、強い動物を食べればその力が身につくということらしい。事故死したシマウマの肉などおいしいはずもないが、アフリカのサバンナを駆け回る元気がもらえると思えば、高い金を払っても食べる価値があるというわけだ。

闇市場で流通する“中国の国宝”

たくましい動物の力を我が物としたい……。このニーズがもっとも強いのが精力剤で、そのため各種動物の鞭(ペニス)が出回っている。

私が食べたことがあるのは牛や馬で、街中の串焼き屋で普通に売っていた。もっとも効果が高いとされるのがトラだが、ワシントン条約で取引が禁止されているため、まるでドラッグのようにこっそりと売買されるという。トラの鞭を食べた中国人によると、なじみの料理店が闇ルートで食材を入手し、常連客に連絡。こそこそと集まって食したという。

うまくもなければ効果も感じなかったそうだが、違法食材を隠れて食べる背徳感は何年たっても話のネタにできるほどのインパクトがあるらしい。こうした違法食材のなかでも、おそらく頂点に君臨するのが中国の国宝ジャイアントパンダであろう。闇の世界ではその肉も流通しているというから驚きだ。

パンダ肉流通が表に出た事件がある。2014年のこと、雲南省昭通市水富県の森林警察は「パンダ肉が販売されている」との通報を受けた。捜査したところ、出所不明の冷凍肉が押収された。容疑者はクマ肉だと言い張ったが、DNA鑑定の結果、まさにパンダの肉であることが判明した。

ジャイアントパンダ
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このパンダ肉はどこから入手したのか。取り調べの結果、近隣の農民、王兄弟が捕殺したことが明らかとなった。飼っていた羊が猛獣にかみ殺されたため、追いかけて害獣を退治したら、それがパンダだった。これが容疑者の主張だ。

家畜を殺されてかっとなったという弁明だが、銃殺した後は手際よく解体し、肉を仲買人に売っていたのだから弁解の余地はないだろう。ちなみにパンダ肉35キロに4本の手足をセットにして、わずか4800元(約8万1100円)という安値だったことも話題となった。

もっともこれは仲買人の仕入れ価格で、末端価格がいくらになるのかは見当もつかない。なお、王兄弟は兄が懲役13年、弟が懲役11年という重罰を受けている。