コロナ対策のためゲテモノ食の規制を強化
新型コロナウイルスの感染被害は甚大で、さすがの中国政府もこの状況はまずいと考えた。国際的にコロナの起源論争が始まるや、ウイルスは他国から持ち込まれた、武漢市の野生動物市場が発端ではないと主張する一方で、かつてないほどに強力な野味規制を実施している。
中国全土でまだコロナ対策のための経済活動停止、外出自粛が続いている最中の2020年2月24日、全人代常務委員会は、野味規制の法案を可決した。従来の規制は希少動物の保護が中心で公衆衛生の観点がなかった。貴重だから保護すべき、毒があるので食べてはいけない、という決まりはあっても、それ以外は放任されていた。
そこで同法案では、家畜認定を受けた動物以外は、食べることも繁殖させることも禁止するというホワイトリスト方式が採られた。
ホワイトリストに掲載されたのは以下の33種である。中国で古くから扱われてきた伝統畜禽として、「ブタ、牛、コブウシ、水牛、ヤク、ガウル、羊、ヤギ、馬、ロバ、ラクダ、ウサギ、ニワトリ、アヒル、ガチョウ、ハト、ウズラ」の17種類。
これにくわえて外来種だが繁殖手法が確立している特殊畜禽として「ニホンジカ、アカシカ、トナカイ、アルパカ、シチメンチョウ、ホロホロチョウ、キジ、鷓鴣(シャコ) 、ノバリケン、マガモ、ダチョウ、エミュー」が選ばれた。
さらに「ミンク、ギンギツネ、ホッキョクギツネ、タヌキ」は非食用、すなわち毛皮のための繁殖が認められている。大騒ぎとなったのはワニ、スッポン、ウシガエル、ヘビ、ザリガニの類だ。
年間1000万頭を消費する“犬食”も禁止されることに
先の2003年の繁殖許可リストには入っており、近年も中国全土で一般的に食べられている食材である。養殖産業の規模も大きい。他に先駆けて地方条例を定めた広東省深圳市の担当官僚が質疑でスッポン禁止と発言したため、これがトップニュースになるほどの騒ぎとなった。
最終的にはホワイトリストで制限されるのは哺乳類と鳥類のみという解釈となり、爬虫類や両生類、甲殻類は規制されないこととなった。特にザリガニとビールのセットは中国の夏には欠かせないB級グルメとして定着しているため、安堵した人は多いようだ。
この決定によりハクビシンやセンザンコウなど多くの野味は禁止されることとなった。特に衝撃が大きいのは犬肉が違法となったことだろう。中国は年に1000万頭、全世界の消費量の約半分を消費していると言われている。広西チワン族自治区の玉林犬肉祭りは多くの犬肉ファンと、それ以上に反発する多くの動物愛護団体を集める世界的イベントとなってきた。
中国でもペット愛好家が増えるなか、動物愛護の観点から犬肉を禁止すべきか、それとも犬肉食の文化と関連事業者の商売を守るべきかというジレンマが常につきまとってきた。中国共産党の機関紙『人民日報』は2014年6月23日の記事で「犬はパートナーでもあり、食材でもある」との論説記事を掲載しているが、賛成派も反対派も互いの意見を尊重して解決策を見つけようという、腰の引けた内容であった。
ところが2020年のホワイトリスト方式から犬、さらにネコが外され、ペット愛好家から悪名高かった中国の食習慣は違法となったのであった。
新型コロナウイルスの出現を契機として世界は大きく変わる。盛んに言われている話だが、中国においては野味の厳格な禁止というアフターコロナが待ち構えていた。新型コロナウイルスは他にどのようなレガシーを残すのだろうか。