交渉してなんとか換気扇を回す許可を得たものの、それからは故意に近くで煙草を吸われたり、「電気代がもったいない」とたびたび換気扇を止められたりした。仕事中、言いがかりをつけられて胸ぐらをつかまれ、首を絞められたこともあった。
勤務を始めてから3年ほど経った頃、派遣先の常務から「正社員になる気はあるか」と聞かれた。正社員になることをひとつの目標にしていた三浦さんは、すぐに「ぜひお願いします」と答えた。
契約時、三浦さんの業務は「貿易事務」とされていた。原則として、派遣期間が3年を超える派遣社員に対し、派遣先企業には直接雇用に切り替える義務がある。ただし政令で定められた26種類の業務には例外的に3年以内の制限がない。「貿易事務」は期間制限のない専門業務にあたるが、三浦さんの業務の実態とは異なる。この企業は違法派遣をしていたのだった。
勤続13年が経った08年7月、久しぶりに常務の姿を見かけ、あらためて正社員化の話を尋ねた。常務からは、「経営が苦しいから無理だったわ」の一言だけだった。
この頃、派遣先では、喫煙者の割合が増えた。喫煙者は職場内で1日に何度もいっせいに煙草休憩をとっていた。三浦さんは、昼食時以外に休憩はとっていなかったが、煙に耐えられなくなり、煙草休憩に合わせて、自分も休憩をとってその場を離れるようにした。換気扇を止めるという上司の嫌がらせは相変わらず続いていた。
煙草休憩に合わせて席を立つようになった三浦さんに対し、上司は「おまえ、そんなことをしていると次の休憩はないぞ」と吐き捨てた。その言葉のとおり、三浦さんは、08年9月に期間満了として解雇されてしまう。三浦さんは、派遣という働き方をこう振り返る。
「13年間も繰り返し契約を更新していたのに、職場環境の改善を求めたら契約満了。簡単に使い捨てられる、奴隷のような働き方だと思います」