住み込みや寮付きの仕事を辞めるとき、いったん身を寄せる家族がいないと、いきなり住まいを失う恐れがある。高齢であればなおさらだ。

石井さんは、派遣会社で同僚だった60代の男性が、派遣切りにあって悩んでいる、と人づてに聞いた。「相談できる団体がある。生活保護も受けられる」と伝えようと、寮の部屋を訪ねたところ、男性が首を吊って亡くなっているのを見つけた。死後1週間が経過していた。

「寮に住んだまま雇用保険や生活保護を受けることができれば、家を失う恐怖はだいぶやわらぐと思います。同じ派遣会社にいて離職票も受け取らずに追われるように寮を出た人たちは、どうなってしまったのか……」

現在、石井さんは、家を失った仲間の力になりたいと、かつての同僚たちに連絡を取り、支援団体への紹介を進めている。

13年間勤続も「一言」で使い捨てにされる

三浦孝一 36歳
受験失敗→学費のためバイト→13年間違法派遣→派遣切り

「派遣ではどんなに頑張って働いても、簡単にクビになってしまいます」

こう語るのは三浦孝一さん(36歳)。三浦さんは、高校卒業後、大学受験に失敗。学費を貯めるために短期のアルバイトを始めたが、そのまま受験せずにアルバイトを続けた。21歳のとき派遣会社へ登録。機械部品会社で、包装や箱詰めなどのピッキングの仕事を始めた。時給は1400円で、月収は手取りで19万円ほどだった。

働き始めてすぐに、三浦さんは、派遣先の社員が仕事中にひっきりなしに吸う煙草の煙に困るようになった。子どもの頃にぜんそくを患ったことがあり、煙草が苦手だった。

勇気を出して、派遣先の上司に「換気扇を回してもいいでしょうか」と許可を求めると、上司は「換気扇は、火災のときにしか回してはいけない」と認めようとしなかった。