熟考の末動き出す日本、まずはやってみる台湾

あと、日本と台湾を比較すると、日本は「衣食住」に対して台湾は「衣食住と“行”」があるんです。これが最大の違いです。“行”っていうのは移動とか交通とかの意味。これが生活の四原則として入っているんです。移動とか交通は、いわゆる“変化”の意味なんじゃないかな。これは中華思想なんです。これは日本とアジアの差で。これは僕らが「アジアっぽいね」といっているところ。

神田桂一『台湾対抗文化紀行』(晶文社)
神田桂一『台湾対抗文化紀行』(晶文社)

日本はよく「お変わりないですか?」とか言ったり。“変わらない”ことが一つのよさだったりするんですけど、台湾は変わってないことがよくないというか「まだ同じことやってるの?」とか、どんどん変わっていいし、そういった部分で見切り発進っていうのがある。だから「Uber」とか社会的な新しいこともとりあえずやってみるんですよ。

対して日本は、考えて考えてようやく始める。それはまあ遅いんですけど。台湾は一回やって絶対失敗するんですよ。「エアービーアンドビー」もそうだし、「ETC」もそう。台湾はとにかく早いんですよ。一回失敗してもう一回復活して、世に定着していくんです。

僕の雑誌の『LIP』はもともとリップサービスっていう名前で、文化は全て口から出まかせという意味で、ようは口から全部始まると、まさに台湾的な感じだったんですよ。日本は何かをつくるとき、人様に見せるようになってから始まる。それは僕は日本にとっての美意識だったりすると思うんですけど、まず何か口から出まかせでやって失敗して、失敗しながらアップデートしていってどんどん上に行くみたいな、それが僕はすごく台湾というか、アジア的だと思うんです。

タピオカブームが日本にもたらしたもの

日本に定着した台湾文化というのもあって、タピオカミルクティ人気があるじゃないですか、あれって歩きながら飲む文化が日本にはなかったんだと思うんです。それまでは、日本は必ず着席する文化だった。あのタピオカミルクティブームはそのライフスタイルの輸入だったんじゃないかと思います。日本の台湾化とも言えます。そういう意味では、日本もようやく本当のアジア文化圏に入って、よりフラットになっていくのかなと思いますね」

喫茶店を出るころには雨が降っていた。僕の台湾に対する違和感を「ズレ」という表現でうまく表現してくれた田中老師にとても感謝していた。

日本人から見た台湾。それは、同時に台湾人から見た日本を意識することでもある。その「ズレ」を認識することで、僕らは相互理解を深めていけるのではないだろうか。理解は誤解の総体と言ったのは村上春樹だが、両国ともに村上春樹好きが多いから、それを前提にうまくコミュニケーションを取れるんだろう。わかり合えやしないってことだけをわかり合うみたいに。そんなことを思いながら、僕は、新宿の雑踏に自ら姿を消した。

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