ずっと単身でいること、結婚しないことに理由は必要なのだろうか。ノンフィクション作家の吉川ばんびさんは「世間では独身者より既婚者を持ち上げる風潮がある。だが、どちらの生き方も本人が納得して選択したのならば、他人が口を挟む問題ではないはずだ」という――。
カフェでリラックスする女性
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「結婚『できない』人」という言葉

ネット記事や雑誌の特集などで「結婚できない人の特徴○パターン」のようなタイトルを見るたび、最近では「まだこういう価値観が世間に通じる段階なんだな」と小さく絶望するのをくり返している。

男性の知人から「お前が30歳になって独身だったら指さして笑ってやるよ」と言われたときから10年がたち、私は30歳になった。もちろんその間に結婚した友人はたくさんいて、新しい家族が誕生した人も、けんかしつつも夫婦であり続けている人、離婚した人、みんな多種多様な生き方をしている。

独身のままでいる友人の中にも、いろいろな考えの持ち主がいる。「恋人はいるけれど、お互い特に結婚を考えていない」「誰かと一緒に過ごすより一人の方が向いているので特定の相手を作らない」「いつかは結婚も考えようと思うが、今は一人がいい」など、それぞれが自分の人生をしっかりと考えた上で、選んだ道を歩いている。

にもかかわらず、世間ではまだ「結婚していない人」より「結婚している人」を持ち上げる風潮があって、冒頭に書いたように「結婚『できない』人の特徴」なんて、まるで「結婚していないこと」を本人が望んでいないかのように、ましてや彼ら彼女らが結婚を焦っているかのような言葉を使って書かれてしまうことに違和感を覚える。ドラマやバラエティー番組だけでなく現実世界でも、独身の人に対して「だから結婚できないんだよ〜」と揶揄やゆしたり、まるでそれが弱点かのように指摘したりする場面を見ることもある。

「結婚したら幸せになれるよ」

「この間、仕事関連の知り合いで40代半ばの男性から『○○さんも結婚したら幸せになれるよ』ってアドバイスされたんです、すっごいモヤモヤしちゃって」

そう憤る知人女性のエピソードが最悪すぎて、つい苦虫をかみつぶしたような顔をしてしまった。その知人は20代後半の女性で、小学生の頃から母親の再婚相手から虐待をされて育った過去がある。話の流れからその生い立ちを男性に話したところ、酒を片手に「大変だったね。でも、女性は結婚したら幸せになれるよ」と諭されたのだという。

彼女は虐待を受けた経験によって「男性と一緒に暮らすこと」について、学生時代から大きな不安を抱えていた。そのため、将来は経済的に自立できるよう勉学に励み、今は自分一人で生きていくのに十分な収入を得ていて、自分の人生やキャリアに満足している。にもかかわらず、「結婚をしなければ幸せではない」といったレッテルを貼られ、その俗っぽい物差しで勝手に人生の満足度を測られたことに、怒りを感じたのだ。