日本人の給与はほとんど増えず景気が停滞する中、物価だけは急上昇する「スタグフレーション」のリスクの高まりを指摘する声がある。経営コンサルタントの小宮一慶氏は「企業はもちろん、所得の二極化が進む中、低所得者層への影響は甚大です。冬になり、コロナ新規感染者が増加した場合、それをメディアが過熱報道すると、また自粛が強いられ、経済はさらに停滞する恐れがある」と警鐘を鳴らす――。
ルーペで拡大した新聞の見出しには、宣言解除の文字
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日本が陥る「景気低迷(給料増えず)+物価高騰」という泥沼

コロナウイルスの猛威が日本では少し和らぎ、これから本格的な景気回復を期待したい時期ですが、私は「スタグフレーション」がこの国を襲うのではないかととても懸念しています。

スタグフレーションとは、停滞を意味する「スタッグ」と「インフレーション」の合成語です。景気があまりよくない中でインフレが起こると、景気をさらに悪化させることになりかねません。これまで1970年代後半の米国のカーター政権のときに経験しています。もし、本当にそうなった場合、日本国民は今以上の苦しみを受けることは必至です。

日本の消費者物価指数の上昇が遅れているのは経済が弱いから

図表1では、日本、米国、ユーロ圏、中国のこのところの消費者物価上昇率を示しています。

消費者物価上昇率

日本の消費者物価は、9月になりようやくプラス(0.1%)になりましたが、それまではマイナスが続きました。一方、ユーロ圏は3%台だったのが4%台に、米国ではこのところは5%台の物価上昇が続き、10月には6.2%まで上昇しました。中国は1%を切る程度の物価上昇です。表にはありませんが他のアジア諸国は2%台の成長です。

欧米各国は「ウィズコロナ」の経済対策を行っています。ワクチン接種が進んだことから重篤者、死亡者の率が大きく下がり、感染者数自体をそれほど気にすることなく景気拡大のための政策を行っているのです。

中国の成長率が低いのは、「共同富裕」のスローガンの下、前回のこの連載でも指摘したように、塾業界や恒大集団などの不動産大手などへの締め付け、それにともなう不動産市況への不安感、北京オリンピックを控えてのコロナ感染対策の強化などで、経済成長が鈍化しているからです。

つまり、経済の動きが鈍い日本と中国の消費者物価の上昇率が低く、とくに、経済の足腰がもともと弱い日本は、物価上昇率が世界の中で「極端」と言っていいくらい低いということです。