物価が上昇し続けるインフレがやってくると、どうなるのか。経営コンサルタントの小宮一慶さんは「賃金の上昇がインフレ率を上回らなければ、消費は減退し、日本の景気回復はさらに遅れます。また日銀が抱える520兆円以上の国債の価格が下落するリスクがあり、そうなると日銀の“自己資本”が毀損され、日銀の信用で成り立っている金融・通貨システムが危険にさらされます」という――。
新聞の見出しに「物価高」の文字
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もうすぐ「良くないインフレ」がやってくる

日本はもうすぐインフレを経験することになる。

そう私は考えていますが、これは日本の景気に打撃を与えるだけではすみません。もっと心配なのは大量の国債を抱えたままの日本銀行に、「国債価格下落」という大きなダメージを与えるのではないかということ。それにより国民が大きな影響を受けるのは必至です。

まずは、本当にインフレが起こるのかどうか。数字を確認しましょう。

2021年消費者物価(2020年比、%)

日本以外の国ではこのところ、消費者物価がかなり上昇しています。図表1にあるように、米国では7%、欧州では5%台、中国はゼロコロナ対策などで成長が鈍化しているので少し低いですが、それ以外のアジアの国では2~4%程度、消費者物価が上昇しています。

一方、日本では2021年12月が0.5%で、諸外国に比べて低い状態が続いています。これには2つの理由があります。

ひとつは、これまでもこの連載で指摘してきたように、ワクチン接種が諸外国より数カ月ほど遅れたことで、景気回復が遅れ、消費が弱いことです。ここ30年間ほどほとんど経済が成長しなかった弱い足腰の上に、ワクチン接種の遅れという悪材料が加わったのです。

もうひとつの要因は、菅内閣のときに実施された携帯料金の値下げが影響をしていることです。もし、携帯の値下げがなければ、現状でも2%程度まで物価が上昇しているという試算もあります。

そして、消費者物価の上昇率は前年比で計算したもので、2022年の4月には携帯値下げの影響がなくなるため、4月以降は2%程度まで上昇すると考えられます。

さらに、図表1には、日本の消費者物価の数字とともに、「企業物価」と「輸入物価」の数字が載せてあります。ご覧のように、輸入物価は、ここ2カ月は前年比で4割以上上がっています。原油や木材、農産物などの値段が高騰しています。そのため、企業間の取引の物価を表す「企業物価」は9%程度の上昇です。

注意深く見ないといけないのは、米国の企業物価に相当する「卸売物価」も10%程度の上昇をしていますが、米国の場合、消費者物価も7%程度上昇しているので、卸売物価の上昇分のかなりの部分を最終消費財に転嫁しているということです。

ところが、日本の場合は、企業物価の上昇分のわずかしか消費者物価に転嫁できていないのです。

長らく物価の上昇を経験しておらず、後に述べるように給与も上がらない中では、企業も値上げが怖いという面もあります。このことは、企業収益の圧迫要因になります。

そして、輸入しているものの値上がりが企業物価の上昇を招き、その一部が消費者物価の上昇を招いているという構図から読み取れること。それは、値上がりで得たお金が国内で循環するのではなく、海外に流出しているということです。

日本の状況は、米国のようにウィズ・コロナの経済政策で景気が回復し、需要の増加が、賃金の上昇や消費者物価の上昇を招いているという「良いインフレ」とは構造が根本的に違うという認識が必要です。