異次元緩和のツケが回ってきた

景気の停滞――。不幸なことにここ30年間、日本人はこの経済環境に慣れっこになっています。中には「インフレが来る」ことを特別視しない人もいるかもしれません。しかし、今回のインフレは、少し怖い面があります。過去のものとは明らかに違うからです。

ポイントは、日銀が実行している異次元の金融緩和が“異常な状態”になっている中でインフレが起こることです。

ご存じのように日銀は長年「2%」のインフレ率を目指していました。それが、給与上げ→需要増加という形で起こる「良いインフレ」ならまだしも、輸入物価の上昇で起こる「悪いインフレ」だということは由々しき問題です。

加えて、襲来するインフレは日銀にとって大ダメージを与えるおそれがあります。どういうことか。日銀は現状520兆円以上の国債を抱えています。経済を底支えしようと異次元緩和を実施するために民間銀行から大量の国債を買い入れ、資金を供給したのです。

以前は、「日銀券ルール」という暗黙の了解がありました。日銀券の発券残高程度(現状約120兆円)しか、国債などの価格変動リスクのある商品は保有していませんでした。これは、日銀が大量に価格変動リスクのある金融商品を保有し、もし価格が下落するようなことがあれば、日銀の信用を大きく損なうことが起こりうるからです。通貨を発行している中央銀行の信用が毀損きそんするなどはあってはいけないことだからです。

しかし、ここまで述べているように、インフレが日本を襲う可能性があります。それも低い確率ではありません。そうしたときに、長期金利が上昇する可能性があります。

日銀は政策金利である「コールレート翌日物」という短期金利だけでなく、長期金利である「10年国債利回り」もコントロールしています。

「コールレート翌日物」と「10年国債利回り」

後者に関しては「プラスマイナス0.25%」の範囲に収まるように、国債の売買などで金利を調整しているのです。世界の主要中央銀行で長期金利のコントロールをしているのは日銀だけです(図表3)。

しかし現状、インフレ懸念による世界の金利上昇から、「プラス0.25%」という「上限」に近づきつつあります。上限金利を上げることはできますが、金利が上がると、債券価格は自動的に下落するため、日銀が保有する大量の国債に含み損が生じます。

※2月10日に長期金利が一時0.23%まで上昇(およそ6年1カ月ぶりの高い水準)。日銀は14日、指定する0.25%の利回りで国債を無制限に買い入れる措置を実施。日銀の狙いはこれにより金利上昇を抑え、今の金融緩和を続ける姿勢を強調し、0.25%の上限金利を死守すること。

金利の上昇幅が小さければなんとか持ちこたえることができるでしょうが、インフレ率が欧米並みに高くなったときには、長期金利のコントロールが難しくなります。そうなれば、日銀の自己資本が実質的に毀損されることにもなりかねません。日銀の信用で成り立っている、金融、通貨システムが危険にさらされるということです。

また、金利コントロールがうまくいかなければ、インフレが放置される可能性もあります。そうなれば、物価はどんどん上昇し、国民の家計にも甚大な悪影響を及ぼすことになります。

4月以降のインフレ率からは目が離せない状況です。

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