バーチャルな感覚がはびこり、利己主義が蔓延した結果、CO2の削減という人類喫緊の課題に対しても、キャップ・アンド・トレード(排出権取引を容認する削減方法)という、本質から外れた対策が志向されている。バーチャル化したマネーと同じように、CO2の売買というコンセプトだけが独り歩きをしている。リアルに重要なのは、地球上から真水でいったいどれだけのCO2を削減できるかという議論ではないのか。

地球は、炭酸ガスを吐き出す動物と炭酸ガスを吸収する植物の微妙なバランスの上に、380ppmという炭酸ガス濃度を保っている。ただヒステリックにCO2が悪いと叫ぶのではなく、またキャップ・アンド・トレードというコンセプトを機能させることに汲々とするのでもなく、こうした地球の絶妙な平衡状態に冷徹な目を向けてみれば、CO2を削減するには、排出量を削減するだけでなく、炭酸ガスを吸収する仕組みを強化すればよいということに気づくはずだ。

これから新炭素社会が始まるのだと、私はことあるごとに言っている。三菱ケミカルHDは化学を生業とする会社だが、化学会社とは、錬金術ならぬ、錬炭素術を持った“カーボンの細工師”である。炭素繊維がその象徴だが、化学はむしろ炭素を利用することによって新しいモノを生み出す可能性を数多く秘めている。

現在のクオリティー・オブ・ライフを維持し、さらに向上させようと思ったら、人類は動物と植物の関係のように、CO2を連鎖的に変換していく産業構造への転換を図る必要があろう。さらに言えば、核融合のように無から有を生むテクノロジーを生み出すためのイノベーションを脈々と継続していく筋立て、ストーリーが絶対的に必要なはずである。

そういう意味で、MBAベースのマネジメントはすでに役割を終えた。MOT(マネジメント・オブ・テクノロジー=技術経営)ももはや時代遅れだ。これからはMOS(マネジメント・オブ・サステナビリティ)の時代だと、私は考えている。効率の追求、利己的な利益の追求を至上命題とする経営ではなく、地球、社会、会社、そして個々の人間の永続的な存続、共存を第一義に据えた経営こそ、今日の企業にとってもっとも重要なのだ。