タリバンはイスラム法に忠実に従おうとしているだけ

「タリバンは独自のイスラム法解釈で」自由や人権を抑圧するという記事も多く見られた。だが、これは誤りである。タリバンは独自のイスラム法解釈をしているのではなく、他のイスラム圏の国と違って、イスラム法通りに国を運営しようというのである。

そんなはずはない、他の「イスラム教国」は、あんなに冷酷な統治はしていないじゃないか、と思われるかもしれない。だが、簡単に言えば、世界にイスラム法に忠実に従う国は、ほとんど存在しないのである。

ラマダン中に祈るイスラム教徒の男性
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確かに、サウジアラビアなどは「厳格なイスラムの国」と言われる。あの国のイスラムは確かに厳格だが、イスラム指導者は王政に口を出さないという盟約をサウド王家との間に交わしている。

以前は、女性は保護する立場の男性と一緒でないと車の運転もできなかったし、不倫(姦通)で死刑にされることもあった。だが、今のムハンマド・ビン・サルマン皇太子が、政治を仕切り出すと「改革」によってこれらを緩めた。

欧米諸国からは「改革」ともてはやされたし、日本のマスコミも好意的に取り上げた。実は、イスラム的にはおかしいのだが、王家との盟約があるから、イスラム指導者たちが「おかしい」と口を出せないだけのことである。

タリバンの方は、トップにアミール・アル・ムーミニーン(イスラム信徒の長)を据えて、文字通り、イスラム法通りに統治しようとしている。わかりやすく言えば、トップはイスラムの先生であって、富と権力を独占する王や部族長ではない。

アッラーにいかに忠実かという物差ししか持たない

人権について少しだけ触れると、イスラムにも人権はあるが、西欧世界のそれと土台が全く異なる。典型的なのは、男女の権利で、イスラムには、男には男の義務と権利、女には女の義務と権利があって両者は異なる。したがって、西欧が要求するジェンダー平等の観念はない。「ないものはない」と言っている相手に「認めろ」と迫っても無駄である。

このあたりもジャーナリストは注意すべきなのだが、イスラムには人間社会が自分の力で「進歩する」という発想は全くない。西欧では、かつて女性に対してひどく差別的だったものを改めると「進歩」したことになる。しかし、イスラムにこの発想はない。アッラーが定めたことに、どこまで忠実かという物差しかないからである。

だから、タリバンに向かって、あれもできていない、これも守らないと詰め寄っても意味がない。西欧の価値や物差しと、タリバンの掲げるイスラムは一致点がないことを前提にする必要がある。その上で、相手が過剰に厳しくイスラムを運用している点を批判するしかないのである。