YouGovの10月25日時点の調査(複数回答)では、有権者の54%が健康(新型コロナ)を最大の関心事に掲げた。死者の増加は限られているが、英国では再び感染が拡大しており、有権者は再び関心を強めている(図表2)。続く二位は、8月23日時点で35%まで低下していた経済であり、10月25日時点で44%に盛り返した。
この間、英国はモノ不足の様相を強めた。行動制限の緩和に伴って需要が急速に回復した反面で、トラック運転手の不足から物流が停滞し、商店で品不足が深刻化した。一時はガソリン不足も深刻化、スタンドに長蛇の列が連日のように作られていた。極端な物流の混乱は解消したようだが、物流の問題は依然として英経済のボトルネックだ。
この問題が欧州連合(EU)からの離脱によって引き起こされたことは明らかだ。北アイルランドとアイルランド間の物流問題も解決の糸口が見えず、EUの出方ひとつで英国はさらなるモノ不足に陥る可能性がある。皮肉なことに英景気の急回復は、ジョンソン政権の対応の不備と相まって、EU離脱の負の側面を一気に露呈させたのである。
一方で、英国でも野党支持者を中心に環境意識が高まっており、先のYouGov調査では有権者の36%が最大の関心事であると回答、経済に次ぐ3番目の位置につけている。経済の問題が簡単に解決しない中で、有権者へのアピールを重視するジョンソン首相のCOP26に対する意気込みは強くなり、その一手段として日本を叩いているわけだ。
EUを出し抜き米国にどうすり寄るか
法改正などがない限り、英国の次期総選挙は2024年5月2日に行われる予定である。2019年7月に就任したジョンソン首相でなければ、2020年1月のEU離脱はなし得なかっただろう。一方で、それ以外の政治的な功績に乏しく、首相の人気は高くない。コロナ禍を脱したとしても経済が低迷したままなら、次期の総選挙での敗北は免れない。
気候変動対策で世界をリードすることは、EUを出し抜き、さらに米国にすり寄る観点からも重要な意味を持つ。EUと距離を持ち米国と共闘することは、ジョンソン首相の岩盤支持者層である保守党の強硬派やその支持者にとって悪い話ではない。ジョンソン首相が唱える外交戦略構想である「グローバルブリテン」にもかなう話だ。
米国のバイデン大統領は、アフガニスタンからの米軍撤退で著しい失態を犯すなど、その世界的な指導力が問われている。今回のCOP26で強いリーダーシップを示そうと躍起になるバイデン大統領に対して適切なアシストができれば、ジョンソン首相に強い追い風が吹くと期待される。米国の信頼獲得はジョンソン首相の悲願そのものだ。
他方で、米国とEUの関係は微妙である。当初、EUのバイデン大統領に対する期待は大きかった。しかし先に述べたアフガン問題や、アジア太平洋戦略での混乱、具体的にはフランスの支援によるオーストラリアの原子力潜水艦の開発計画の破棄などを巡り、EUは対米不信を募らせている。これも英国にとって好都合となる。