ライバルは自分を高めるためのツールと思え
先ほど述べたように、脳には「生きたい」「知りたい」「仲間になりたい」という3つの根源的な本能がある。この3つの本能に逆らうことをやると、脳のパフォーマンスは急激に落ちる。そして「敵に勝つ」は、「仲間になりたい」という本能に真っ向から逆らう考え方なのだ。地球の歴史の中で多くの生物が絶滅していったが、絶滅した生物の共通点は、周囲にいる仲間とうまくやっていけなかったことである。
では、ハンセンのことをどのように認識すれば、北島は脳のパフォーマンスを最大限に高めることができるのか。私は北島を含めて全員に、こうアドバイスした。
「ハンセンをライバルだと思っちゃいけない。自分を高めるためのツールだと思いなさい。そして、最後の10メートルをKゾーン(北島ゾーン)と名づけて、水と仲間になり、ぶっちぎりの、感動的な泳ぎを見せる舞台だと思いなさい」
つまり、ハンセンとも水とも「仲間になれ」とアドバイスしたのだ。これなら、脳の本能に反することはない。
結果はご存じの通り、北島は見事金メダルを獲得し、ハンセンは4位に沈んだのである。
結果を求めるあまり能力を発揮できない愚を避けるには、目標達成の「仕方」にこだわるのがいい。勝負に懸けるのではなく、達成の仕方に勝負を懸けるのだ。そして、損得抜きの全力投球をする。
結果を求めず、達成の仕方に全力投球するとき、人間は信じられない集中力を発揮する。ポイントは、「損得勘定抜きに」だ。損得勘定とは、実は、結果を求める気持ちにほかならないからである。
※すべて雑誌掲載当時
(山田清機=構成 小原孝博=撮影)