社会保障が性産業に敗北している
その後、女性はインターネットを通じて「ゆずりは」の存在を知った。ようやく高橋さんたちのもとで保護されたときには、心に深い傷を負っていたという。高橋さんは、現在ではアフターケアの重要性への理解が広がってきているが、この女性のようなケースは決して珍しくはないと話す。
「施設にも頼れない、役所にも見捨てられる。いわば社会保障が性産業に敗北した事例です。施設の子どもたちは、一度社会に出たら、その生きづらさにショックを受けることが多いですね。学歴の低さやおよそ理想的とは言えない劣悪な成育環境を生きてきた子どもたちは自分に自信を持つことができません。『初めての一人暮らし』は誰しも大変ですが、そうした子どもたちは一層強いストレスを感じます。“緊張と不安”の中に長年身を置いていたことでメンタルが弱く、朝起きられなかったり、『なぜ他の人ができるのに自分はできないの?』といった不安にさいなまれたりすることもあります」
施設を出た子どもたちがこうした不安を感じたときに、自分のなかに確かな居場所や頼れる存在があることが非常に重要だと高橋さんは訴える。そうでなければ、子どもたちの心の内側に潜んでいたトラウマが環境の変化によって表面化し、暴発してしまう結果を招きかねないからだ。