身寄りがなかったり、虐待を受けたりした子どもが暮らすのが児童養護施設だ。国の制度上、入所できるのは原則18歳までで、退所後は社会での自立を迫られる。進学を諦めるケースも多い。どんな課題があるのか。NHK報道番組ディレクターの大藪謙介さんと社会部記者の間野まりえさんが取材した――。

※本稿は、大藪謙介・間野まりえ『児童養護施設 施設長 殺害事件』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。

家で泣いている悲しい女性
写真=iStock.com/SimonSkafar
※写真はイメージです

原則18歳での退所、自立を迫られる難しさ

児童養護施設や里親家庭などから出たあとのアフターケアは、今大きな課題となっている。児童福祉法で児童は18歳未満と定義されているため、児童養護施設や里親家庭などで過ごすことができるのは原則18歳まで。必要に応じて20歳まで延長できるとされているが、実際の運用では18歳で自立を迫られるのがほとんどだ。住まいや生活にかかる費用を自分で稼がなければならないため、進学を諦めるケースも多い。仮に就職できたとしても、長く続かずに仕事を転々とするケースも少なくない。困っても頼れる親族などがいない状態で自立を迫られる難しさは「18歳の壁」とも称されている。

2004年の児童福祉法の改正で、児童養護施設の業務に「退所者への相談支援」の業務が規定されたものの、退所したあとのアフターケアに財政的な後ろ盾はなく、各施設の職員の善意に任されているのが実情だった。2017年にはようやく、社会的養護自立支援事業が創設され、自立支援コーディネーターによるサポートや、継続した相談支援、生活費や家賃の貸付などに国から補助が出ることになった。この事業を活用することで、22歳の年度末まで、施設や里親家庭での暮らしを継続することも可能となった。現場では試行錯誤をしながらではあるが、少しずつ実践が始まっている。

大学進学率は17.8%と低い水準にとどまる

さまざまな事情から家族と離れて暮らす児童養護施設の子どもたちにとって施設とは我が家であり、職員は親代わりとなって、身の回りのことから精神的なケアまであらゆる面での支えとなってくれる存在だ。

そうしたいわば“守られた”生活から「原則18歳」という区切りを境に突然切り離され、社会での自立に歩み出すことを迫られる子どもたちが直面する現実とはどのようなものなのか。

厚生労働省の調査によると、高校への進学率はすべての中学卒業者が98.8%に対して、施設の子どもたちが94.9%(いずれも2019年度卒)と、大きな差異はない。

しかし、すべての高校卒業者における大学等への進学率は5割を超えているのに対して、施設の子どもたちは17.8%にとどまっている。10年前は13%だったことを考えると、わずかに進学率は高まっているとは言え、依然として施設の子どもたちの進学率は低い水準にとどまっていることがわかる。