身寄りがなかったり、虐待を受けたりした子どもが暮らすのが児童養護施設だ。入所できるのは原則18歳までとなっているが、退所後も「生きづらさ」に苦しむ人は少なくない。どんな支援が必要なのか。NHK報道番組ディレクターの大藪謙介さんと社会部記者の間野まりえさんが取材した――。

※本稿は、大藪謙介・間野まりえ『児童養護施設 施設長 殺害事件』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。

怒ってこぶしを握る男
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「医療的な支援」を求める当事者の声

社会的養護出身者の集まる場を提供する取り組みは、各地のNPOなどの支援団体が始めているが、都市部での活動が中心となっていて、全国どこにいてもこうした集まりに参加できるとは限らない。今後、自治体でこうした取り組みをサポートする体制も必要となるだろう。

そして、当事者の声を国に届けることも大きな意味を持つ。2021年度から、社会的養護自立支援事業に追加されたメニューの一つに、「メンタルケア等医療的な支援が必要な者が適切に医療を受けられるよう、医療連携に必要な経費補助」がある。新たにメニューが追加された背景には、医療的な支援を求める当事者の声が大きかった。

虐待の後遺症などで抱える「生きづらさ」

声をあげた一人、山本昌子さんは、関東を中心に支援活動をしている団体、「ACHAプロジェクト」の代表をつとめている。自身も親のネグレクトによって乳児院や児童養護施設で育ち、数年前から、社会的養護出身者が費用面から諦めてしまいがちな成人式の振り袖の前撮りをプレゼントする活動を行ってきた。さらに、コロナ禍で社会的養護出身者の孤立が深刻化する中で、新たに食料支援や、オンラインでの交流会を始めたところ、メンタルケアの必要性に改めて気づかされたのだという。

「コロナをきっかけに当事者の子たちとたくさん関わりをもつ中で、虐待の後遺症などが理由で精神面に生きづらさを抱えてしまって、入院にいたっている子もいることがわかってきました。食料品を送ろうとしたら、『実は入院していて受け取れません』という子がいて、どうしたのかたずねたら、『虐待されていたころの記憶がフラッシュバックしてしまって、死にたい気持ちが強くなってしまった』と話してくれたんです」

山本さんが、インターネットを通じて社会的養護出身者およそ116人にアンケートをとったところ、虐待の後遺症で「生きづらさ」を感じていると答えた割合は65%にのぼった。現在治療を検討していると答えた割合も40%にのぼり、医療的支援のニーズの高さも見えてきた。