施設を出たあと、心身に異変が起き始めた
アンケートに答えた一人、20代の健太さん(仮名)に話を聞かせてもらった。
健太さんの母親には精神疾患があり、父親は怒りっぽい性格で、常に夫婦喧嘩をしていて、居心地の悪さを感じていた。父親から時折暴力を受けていた健太さんは、家を飛び出して、近くの祖母の家で過ごすことも頻繁にあった。その父親が癌で亡くなったあと、母親が一人で子育てをすることは困難となり、健太さんは小学生のときに児童養護施設に入所することになった。
施設で過ごしていたころは、精神的な不調を感じることはなかった。しかし、専門学校へ進学するために18歳で施設を出たあと、心身に異変が起き始めた。当初は教室にいたときにお腹の調子が悪くなっただけだった。しかし、徐々に症状は悪化していった。わけのわからない恐怖を感じるようになったり、動悸が激しくなって息切れをしたりするようになった。学校に行くのが怖くなり、休んでしまうことが増えた。思い切って病院にいったところ、「うつ病」「閉所恐怖症」「パニック障害」とさまざまな病名が告げられた。
自分も母親と同じように病気になってしまった。どうすればいいのだろう。健太さんは不安になって施設の職員に相談しようとしたが、職員は、今いる子どもたちの世話で忙しそうにしていた。ゆっくり話を聞いてもらうことはできず、孤立は深まっていった。
早くから精神的なケアを受けていれば……
専門学校はなんとか卒業して就職したものの、職場で苦手な人と接するときにかつての虐待の記憶がフラッシュバックするようになった。動悸や殴られるかもしれないという恐怖感に悩まされ、職場に行くことができなくなり、休職を余儀なくされた。医師からは、「幼いときの養育環境が原因で発達に偏りがあるのではないか」と指摘された。
みずから支援団体を探してつながることで、ようやく自分の話を聞いてもらえる居場所を見つけたが、早くから精神的なケアを受けていればという後悔が拭えないという。
「自己肯定感も低くて、よく自分を責めてしまうし、薬飲んでいないとだめなんです。まわりの同級生たちは、薬とかも必要なくて、一生懸命頑張って暮らしているのに、なんで自分だけと、常にまわりと比較してしまいます。自分は情けないなと、こんなんで生きていけるんだろうかと、幸せに育てられてないのに結婚とか幸せな家庭を築くことができるのだろうかと感じてしまいます。世の中にはいろんな生い立ちの人がいて、こういう傷で悩んでいる人もいるっていうことを理解してほしいし、施設を出てからもカウンセリングを受けられたり、相談機関を紹介してもらえたりできればいいなと思っています」