TPPが新たな中台対立の舞台に
その結果、台湾は中国に先を越された。蔡英文政権が対中関係を重視する国が増える展開への不安をいっそう強めたことは容易に想像できる。中国がTPP加盟国を揺さぶり、結果的に切り崩される国が増えれば、国際社会の中で台湾の立場は一段と不安定化する恐れがある。その展開を阻止するために、台湾は急いで申請作業を進めただろう。台湾には、半導体分野などで連携を強化するわが国が議長国であるうちに申請し、今後の加盟交渉を勢いづける狙いもある。
今後、中国は経済面での結びつきが強い国に働きかけ、台湾との交渉に慎重に臨む、あるいは避けるよう求めるだろう。それに台湾は反発するだろう。対立が激化する中国と台湾が国際世論への働きかけを強める結果、TPP加盟国が経済運営ルールの統一と遵守などに論点を集中して加盟交渉に臨むことは難しくなるだろう。
議長国日本は是々非々の姿勢で臨むべき
中国と台湾の対立が持ち込まれた結果、TPPは複雑化した。複雑化するTPPの論点を経済・安全保障面からの対中包囲網の整備に再度集中させるには、米国のTPP復帰が必要だ。今後のTPPの展開には、米国の復帰の可能性が高まるか否かが決定的な影響をもたらすだろう。
そのために、わが国は議長国としての残り少ない任期を活かすべきだ。わが国は議長国として多様な利害を調整しておかなければならない。ポイントは、TPPの当初の目的に基づき、全加盟国が合意したルールを堅持しなければならないという是々非々の姿勢をわが国が明確に国際世論に示し、賛同を増やすことだ。それは、今後のTPP交渉が議論される大まかな道筋を示すことと言い換えてもよい。台湾はそうした展開を期待しているだろう。
今後、中国は産業補助金など共産党政権の体制維持に関わる項目に関して、例外事項をTPP加盟国に認めさせようとするだろう。コロナ禍によって経済が傷ついたアジアや南米の新興国にとっても、例外措置の導入は魅力的に映る可能性がある。