細田派も麻生派も「菅首相支持」でまとまらなかった

昨年9月に発足した菅政権は、GoToキャンペーンの失敗や新型コロナ対策の行き詰まり、東京オリンピック・パラリンピックの強行開催などのあおりを受け、その支持率は下降し続けた。自民党にとって負けが許されない、衆参3選挙(4月25日)や3知事選、東京都議選(7月4日)でことごとく敗北し、菅政権は自民党内からも批判の声を浴びた。

なかでも8月22日に投開票された横浜市長選では、全面的に応援した小此木八郎・前国家公安委員長が落選した。横浜市は菅首相の選挙区があるおひざもとだ。求心力が一段と低下し、菅首相はますます苦境に立たされた。

総裁選の日程が決まると、出馬表明した岸田文雄・前政調会長の優位がささやかれ、「菅首相が選挙の顔では衆院選に勝てない」との若手国会議員からの声が強まり、結局は安倍氏が強い影響力を持つ最大派閥の細田派や、第2派閥の麻生太郎・副総理兼財務相の麻生派も「菅首相の支持」でまとまることがなかった。

毎日新聞の特報「衆院解散による総裁選先送り」を否定したが…

この情勢の悪化に菅首相は不安になって焦ったのだろう。二階氏ら自民党の執行部を変えるとともに、9月中旬の衆院の解散によって自民党総裁選の先送りを模索した。衆院解散総選挙に勝って総裁選を無風で乗り切るのが菅首相の当初からの作戦だった。

自由民主党本社
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しかし、自民党内ではいずれも「苦し紛れの策」と強い反発を受けた。安倍氏からも苦言の電話が入った。毎日新聞がこの「衆院の解散による総裁選の先送り」を特報したが、菅首相は9月1日に「解散ができる状況ではない」と記者団に答え、解散の可能性を否定せざるを得なかった。だが、事態は取り返しがつかず、菅首相は退任・退陣に追い込まれた。

ここで気になるのが、安倍氏と麻生氏の言動である。この2人は菅首相の人気の低落を問題と考え、「菅では衆院総選挙に勝てない」と早い段階から岸田氏を次期総裁、次の首相に持ってこようとした節がある。選挙の顔を岸田氏に据え変えようと画策したのだ。

そう考えると、これまで沈黙していた岸田氏が菅首相と二階幹事長に反発する形で、勢いよく総裁選出馬を表明したこともよく分かる。