安倍氏、麻生氏が離れたことが、決定打になった

9月2日付の記事「『首相続投のための策謀に国民はうんざり』自民党内からも公然と"菅降ろし"が出てくるワケ」で、「岸田氏という政治家を見直した」と書いたが、安倍氏と麻生氏にうまく踊らされているのかもしれない。

安倍氏は菅首相に対する世論の動向を窺い、中心になって招致した東京オリンピックの開会式(7月23日)への出席を取り止めた。大会組織委員会の名誉最高顧問を務めているにもかかわらず、である。麻生氏も行政・規制改革相の河野太郎氏の総裁選出馬を思いとどまらせるような発言をして麻生派の分裂を食い止めようとしている。安倍と麻生両氏は、党利党略の思惑から菅首相を退任させて代わって岸田氏を傀儡に使って院政を引くつもりなのだ。実に政治の世界は、魑魅魍魎の世界である。

それにしても、安倍氏と麻生氏にそっぽを向かれた菅首相のショックは大きかったはずだ。いままで頼りにしてきた人物から蹴落とされるのだから、一気に気力を失うのもよく分かる。この安倍、麻生両氏が離れたことが、菅首相に不出馬を決断させたのだろう。

記者団への説明はわずか2分間だけ

菅首相が退任・退陣を表明した翌日の9月4日付で新聞各紙が一斉に大きな1本社説にこの表明を取り上げている。

朝日社説は「菅首相1年で退陣へ 対コロナ 国民の信失った末に」との見出しを立て、「新型コロナ対応で国民の信を失い、党内の支持も得られなくなった末の退陣である。災害級といわれる感染拡大と医療の逼迫が続く中、国民の命と暮らしを守る役割を途中で投げ出す菅首相の責任は極めて重い」と書き出す。

「途中で投げ出す」「責任は極めて重い」と極めて厳しい指摘だが、菅政権に対する支持率の低さが、国民からの信頼の欠如を如実に示している。それは退任・退陣表明の3日の東京株式市場の日経平均株価が、新政権誕生への期待感から買いが優勢となって急騰したことからもうかがえる。

朝日社説は指摘する。

「事実上の退陣表明という節目であるにもかかわらず、首相は会見も開かず、記者団に短い説明をしただけで、質問も受け付けなかった。『選挙活動との両立はできない』と、コロナ対策への専念を不出馬の理由にあげたが、その言葉を信じるものは、誰もいまい」

同感である。記者団への説明はわずか2分間だけ。「来週にでも改めて記者会見したい。このように思う」と話し、それ以上の問いかけには答えなかった。

「選挙活動との両立はできない」というなら、なぜもっと早く退任・退陣を決断しなかったのか。それに自民党総裁としての任期は9月30日までだ。その時点、もしくはその前に首相の座も去らなければならない。長くとも残り3週間余りだ。この短い期間中に「感染拡大防止に専念する」(菅首相)としたところで、一体何ができるのだろうか。朝日社説が指摘するように菅首相が語った不出馬の理由はまったく信じられない。