「本当に山あり谷ありの仕事人生ですよね。ちょうど今年42歳になり、人生の折り返し地点というものを意識するようになりました。これまではやむにやまれぬ転職でしたが、今度は、自分の意思を大切に選びたいという思いがあるんです」
業種、職種は問わず、社会貢献性の高い転職先を探し、現在、国内で廃棄される中古車の海外再利用を担う企業への入社を検討中だ。
「海外勤務や単身赴任もあるかもしれません。年収が下がることも考えられますが、それでも子どもたちは、働く僕の姿をちゃんと見てくれると信じています」
一色さんのようなドラスティックな変化でなくても、震災によって、人や社会のために何かしたいと考えた人は少なくない。プレジデントのアンケートの回答では、義援金を送ったという人は7割(71.5%)に及び、被災地へボランティアに行った人が1割(11.1%)、ボランティアをやりたいができていない人が6割(59.9%)という結果からも、こうした傾向はうかがえる。
震災後、人や社会のために何かしたいと考える人が増えたことを電通クリエーティブ開発センターの大越いづみさんは「利他的遺伝子」という言葉を使って説明する。
「震災後、これまで自分中心に物事を考えていた人たちが、家族との絆や人との繋がりを大切に感じ、当たり前と思っていた事柄に感謝する気持ちを持つようになった。生物学的に見ても、人間には自己を優先させる利己的遺伝子と自分のこと以上に他人を思いやる利他的遺伝子が刻まれているそうです。今回の震災によって“利他”の部分が大きく出てきたのではないでしょうか」
(文中の登場人物はすべて仮名)
※すべて雑誌掲載当時
(増田安寿=撮影)