同じく震災後、自分のやっている仕事に疑問を感じ、転職活動を開始した人もいる。外資系自動車部品メーカーの一色文明さん(42歳)だ。
「震災直後に被災地に入った友人が惨状をメールで逐一連絡してくれたんです。それを見て自分は一体何をやってきたんだろうと暗澹たる気持ちになりました。私の勤めるメーカーでは、毎年モデルチェンジする車に合わせ、部品をつくり替えます。性能アップというより、デザインを替えて人目を引くためなんですが、エコが叫ばれる時代、ここまでする必然性があるのか疑問を感じていました。そして震災後、これ以上自分を騙すことはできない、直接的に社会に役立てる仕事に就きたいという思いが募り、転職活動を始めることにしたんです」
何をいまさら青臭いことを……と思われるかもしれない。仕事には闇もあれば光もある。社会で働き、利益を挙げていること自体、社会貢献になるという考え方もあるだろう。一方、一色さんのように、社会に役立ちたいというストレートな思いを行動に移した人がいるのも事実。そうした決断ができたのは、過去の転職経験にあると一色さんは振り返る。
大学卒業後、大手電機メーカーに入社、十数年勤務した一色さんだったが、父親が病に倒れたことを機に実家の小売業を手伝うため退職。幸い父は回復したため、再び企業に就職するも、今度は妻にがんが見つかり、幼い子どもの面倒を見るため、やむなく退職する。妻は完治し、仕事に戻ったのも束の間、経営悪化で再びの転職を余儀なくされ、その後、入社したのが現在のメーカーだったという。