アザラシの生肉は歯ごたえがあってうまかった

3カ月ほどすると食料は深刻なくらい乏しくなってきたが、それを救うようにアザラシが現れるようになってきた。氷盤の空気穴から頭を出したところを鉄砲で撃つ。毎回確実に捕獲、というわけにはいかなかったが、銃弾が命中すると氷穴の下の海に沈む前に突進しモリで確保した。

「アザラシの肉、肝臓、脂、を使ったスープの朝食をとると目の前が急に明るくなるような気がした。せっかく銃でアザラシに命中させたのにモリで確保するタイミングが悪く、数日分の豪勢な食事が夢と消えることも多かった。しかしちゃんと確保できたときはアザラシの赤肉、脂肉、さらにそのスープという御馳走をものにし、腹に隙間のあるかぎりいつまでもたべほうけた」と記録にある。

アザラシはもともと犬が海に入って適応したものだ。解体すると前ヒレ、後ろのヒレなどは手足の骨が折りたたまれて体の中に入っていて、手首から先、足首から先がそれぞれ体から出てヒレになっているのがよくわかる。

10年ほど前、筆者はアラスカ、カナダ、ロシアの北極地帯を旅したが、そのあたりに住むエスキモー(国によってイヌイット)はみんな例外なくアザラシを主食にしていた。

筆者も何種類かのアザラシを生で食べたが牛や豚などよりも脂が強いけれど歯ごたえのある肉はすぐに慣れ、いかにも栄養になりそうでなかなかうまかった。心臓、肝臓はやわらかく、血や腸の中身などはすすって飲む。

いったんそういうものに慣れてしまうと赤身やロースなどの部位による味の違いがわかるようになった。さらについでの話だが、夏のはじめエスキモーの集落の近くでキャンプしていたとき、貰ったアザラシの肉を焼いていたら近くに住んでいたエスキモーの怖いおばあちゃんにすさまじく怒られたことがある。かれらはアザラシに限らず肉といったら生で食うもので、それを焼くとその匂いがたまらなく嫌なのだそうだ。

シロクマの胸肉は絶品

フラム号の突撃隊の話にもどる。

アザラシの御馳走で力を得たかれらはやがてクマと出会うようになる。シロクマである。親グマと子グマに遭遇。苦戦したが3頭をしとめた。

シロクマ
写真=iStock.com/W1zzard
※写真はイメージです

そのときのかれらの日記にはこうある。

「7月17日。とにかくわれわれはここに腰をすえて時の過ぎゆくのを見おくっている。われわれはここを“あこがれキャンプ”とよんでいた。朝も昼も晩もクマの肉を食べ、しかも食べあきなかった。とくに子グマの胸肉が非常にうまいことがわかった」

クマの肉はとにかく大量にあったのでそれを犬に食べさせられるのが嬉しかったのだろう。ここで筆者はできれば確かめたいと思ったのだが、犬に与える肉はともかくとして、探検隊の人たちは食べるときには火で焼いたのかどうか。アザラシ肉もクマ肉もナマで食べていたのだろうか。

海獣からとれる脂は燃料に使えるが、そういう燃料で焼くにしては脂の量が足りないように思う。やはりどちらもナマで食べていたのだろうと推測する。

北海道あたりにいくとクマの肉を食べさせる店がある。言い伝えだが左手の掌がうまい、という。なぜならクマはハチミツが好物だが、それを捕るとき左手を使うからだ、というのである。

個体にもよるのだろうが、クマの左手の肉は思ったよりも固く、かみ切るのに顎が疲れる。他の柔らかい部位にもいきあたらずそれほどうまい肉だとはとても思えなかった。