バス運転手の宿舎は「トイレも風呂も洗面台も共用」

今回の東京五輪は歴代大会と違い、コロナ感染という大きなリスクを負っての開催となった。海外から来る選手役員らには、隔離期間を免除する代わりに、選手村と競技会場との行き来程度しか行動範囲を許さないという厳しい規定を設けた。とはいえ、隔離なしに行動が許可されている海外の人らの対応に直接当たることになる日本側スタッフの懸念は少なくなかったようだ。

例えばこんな話がある。

五輪の関係者輸送のために、全国津々浦々にある観光バス会社から車両とともに運転手が招集され、隔離なしで日本に上陸した選手らへの対応に迫られた。

炎天下、屋根のない場所での車両誘導はきつかったことだろう(成田空港にて)
筆者撮影
炎天下、屋根のない場所での車両誘導はきつかったことだろう(成田空港にて)

筆者と旧知のバス会社運転手は、選手を乗せるバスや専用車の運転手に指名された。しかし、彼はワクチンを1回しか接種できていない段階で徴用され、「もし選手たちからウイルスをもらったら……」と懸念を漏らしていた。

運転席の後ろにビニールの幕を下げたくらいで、本当に感染対策になるのか甚だ疑問だが、さらにショッキングなのは、こうした地方から集められた運転手の宿舎の様子だった。トイレも洗面所も共用で、風呂は大浴場のみという条件下での寝泊まりが求められていたという。

折しもこの時期の都内は新規感染者数が2000人に迫ろうとしており、現在の5000人規模への拡大懸念が伝えられていた時期だ。果たして運転手の間での感染は本当になかったのか、と訝ってしまう。

五輪のために東京に集まった人々が故郷に戻ったら…

一方、スタッフの中でも選手と関わる仕事が多いボランティアたちは、かなりの至近距離で選手らと対応していた。空港での案内をはじめ、選手村と競技会場の行き来で、ボランティアが行き先を確認するのに選手らのスマホ画面を覗き込む機会も多く、超至近距離でおしゃべりする格好となった。

とりあえず五輪は見かけ上、無事に終わったようだ。しかし目下、ほとんどの都道府県で新規感染者数が連日のように過去最多を更新している。五輪に引き続き行われるパラリンピックをめぐっては、開幕前の23日時点で、関係者の感染はすでに140人を超えた。パラアスリートの補助のためには、車椅子での移動の手伝いなど、対応距離がより近いサポートが必要となる。大会関係者から選手らへの感染が広がりはしないか、と心配するばかりだ。

よもや、全国各地から集まって五輪に従事するために東京へと集まったさまざまな人々が故郷に戻ることでコロナ感染を広げてはいないか。もし仮に、各地からの人員徴用が昨今のデルタ株拡散の原因のひとつだとしたら、「五輪の強行開催」ははたして妥当だったのかどうか、と疑問に思わずにはいられない。

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