「日本のおもてなし」の裏で振り回された現場

8月8日、開催さえも危ぶまれた東京五輪は閉幕した。ネット上は、各国選手や役員からによる日本への賛辞であふれている。ほぼ無観客下で開催された異例の五輪だったが、ボランティアをはじめとする運営関係者の努力や心遣いが実を結んだ結果ではないだろうか。

柔道会場で応援のため盛り上がる関係者席。手前はマスク着用を促す掲示物を掲げるスタッフ=2021年7月31日、東京・日本武道館
写真=時事通信フォト
柔道会場で応援のため盛り上がる関係者席。手前はマスク着用を促す掲示物を掲げるスタッフ=2021年7月31日、東京・日本武道館

こうした人々の努力もあって、選手らには少なからず「日本のおもてなし」を感じてもらうことができ、表向きには感動を呼んだように見える。ところがその裏側では、開催の是非や観客の有無に関する政府の決定の遅さに翻弄され、「ヒトの手配」に振り回された人材派遣会社や、不本意な仕事に従事させられた人々がいる。いったいどんなことが起きていたのか、改めて目を向けてみたい。

無観客開催で大量に集めた人手が不要に

開幕2カ月前になっても新型コロナウイルスの感染状況が改善しない中、「大会へのサポート人員派遣」を準備していた人材紹介会社各社の間では「五輪は中止だろう」という観測が支配的だったという。

ところが、政府が強行開催に傾く中、5月末ごろから「大会の会場運営に携わる関連業者」による、ヒトの手配を希望するオーダーが増えてきた。依頼案件によっては、必要人員が数十人、あるいは100人を超えるものもあった。人材紹介の業界関係者によると「これだけの人数を集めるには普段なら半年間、少なくとも3~4カ月かけて進める規模」なのだという。

五輪とパラリンピックの関係施設に入るための入場証(アクレディテーションカード)の申請締め切りは6月末と定められていることから、慌ててヒトをかき集めた様子が見て取れる。

その後、7月初旬に政府は「無観客開催」を決めた。場内外の誘導や案内係など、観客対応の仕事そのものが蒸発し、あらゆる手を尽くして集めた人員の多くは不要となった。こうして、採用されても仕事がないボランティアやアルバイトは報酬の有無にかかわらず、従事する業務は当初のプランとは大きく変えざるを得なくなった。