韓国内でサムスン電子への期待は大きい

株式市場にも同じことが当てはまる。7月末時点で、MSCI韓国インデックスに占めるサムスン電子普通株のウエートは30.34%だ。リーマンショック後の韓国株式市場の推移を確認すると、基本的にサムスン電子の株価が上向き、その後に韓国総合株価指数(KOSPI)をはじめとするインデックスが上昇する傾向が見てとれる。

コロナ禍の中で、韓国経済にとってのサムスン電子の重要性は一段と高まった。例えば、世界的な観光需要の蒸発によって旅客需要の急減に直面した大韓航空は、航空機の運用方法を旅客用から貨物用に急速に切り替えて、半導体やスマートフォンなど軽く、価格帯の高い、かつ需要が高まっているモノの輸送を強化し、収益を獲得している。

2014年8月7日、サムスン本社の外観
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低金利環境とカネ余り(過剰流動性)が続くとの期待をもとに、借り入れを行ってサムスン電子株を購入して短期目線で利得確保を狙う韓国の個人投資家も多いと聞く。

李氏の復帰が待ち望まれた2つの要因

海外経済に目を移すと、サムスン電子を取り巻く競争環境が一段と激化している。具体的には2つの要因がある。

まず、台湾、韓国、米国の主要半導体メーカーのシェア争いが熾烈化している。バイデン政権は半導体や高容量バッテリーなどを重要な戦略物資に指定し、日韓台などの企業に対米直接投資を求めている。その要請に応じて、サムスン電子は170億ドル(約1兆8500億円)の投資を表明した。ただし、サムスン電子の詳細決定はこれからと報じられている。おそらくは李氏の最終決定を待つ段階だろう。

その一方で、ロジック半導体の微細化技術の向上を推進する台湾積体電路製造(TSMC)は、サムスン電子を上回るペースで最先端の製造技術の開発に取り組んでいる。当面はTSMCのシェア拡大が続くと考える主要投資家は多い。その状況に割って入るように、米国のインテルがIBMなどとの関係を強化し、微細化技術の向上を目指している。

同社のゲルシンガーCEOはバイデン政権に海外の半導体メーカーではなく、米国企業に補助金を投じるよう求め始めた。サムスン電子が米国政府から有利な条件を引き出すために李氏の存在は欠かせない。同氏は日欧の半導体装置や素材のメーカー、金融機関との関係も強化してきた。