男性には丁寧なのに、女性には馴れ馴れしい対応をする人がいる。ノンフィクション作家の吉川ばんびさんは「会ったことのない取引先の男性から、驚くほどラフなメールを受け取ったことがある。その男性は、男性の取引先には敬語を使っていると知って、神経を疑った。問題なのはこの男性に『女性蔑視』という感覚すらないことだ」という――。
若い女性のシルエット
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頻繁に届く、まったく知らない男性からのメッセージ

駅などで女性をターゲットにして次々と体当たりをくりかえす男性、乗客が女性と見るや突然タメ口になったりセクハラ発言をしたりしてくるタクシードライバー、しつこい付きまといやナンパを無視したり断ったりすると容姿を侮辱するなど、罵詈雑言を浴びせてくる男性。

残念ながら、現代社会においては「女である」というだけであらゆる場面において舐められがちなのだが、日常生活だけでなく仕事においてもいろいろな理不尽を被るので、そろそろそんな陋習に終止符を打ちたい、と常々考えている。

私はノンフィクション作家・コラムニストとして顔と名前を公表して活動しているが、Twitterやインスタグラム、FacebookのアカウントのDM機能でまったく知らない男性から「タイプです。一度お会いしてくれませんか」など、まるでマッチングアプリか何かのように自己紹介と自撮り写真を添えたメッセージや、性的な(嫌がらせの)内容を含むメッセージが頻繁に届く。

まあ、顔を出して活動している女性に対してそういった連絡を送る人々が多いことは周りからもよく聞く話であったため、それについては想定の範疇だったといえばそうなのだが、予想外だったのは、仕事で、それも会ったこともない取引先の編集者の男性から、タメ口でメールが届いたことだった。

「年下の女性」ならタメ口でいいという認識

最初に男性から連絡があった際には、「記事寄稿のご依頼」として送られてくる他のメールとさして変わらない、初めて連絡をする相手へのメールにふさわしい丁寧な文調だったと記憶している。だからこそ、その依頼を承諾したのだが、こちらから「こういうテーマで書くのはどうでしょうか」と提案したところ、相手からのメールが突然、驚くほどラフになった。

さっきまで「私」だった一人称は「僕」に変わり、ビジネスメールとして成立していた文体も「それ、いいね!」というように、まるで友達に対して連絡をしているかのようなものに様変わりしたのである。

その男性と連絡のやりとりをしたことがある私と同世代の男性数人は「タメ口でメールを送られてきたことなど一度もない」と驚いた様子で、さらに、私以外にも、同じようにタメ口対応をされている女性がいることが判明した。どうやら本人は「年下の女性」であれば、たとえ面識がないとしても、タメ口を使ってもいいと認識しているであろうことがわかった。この男性は、たとえ相手が年下であっても、男性であれば敬語を使い、女性であればビジネス上の付き合いであっても馴れ馴れしくタメ口を使い、性別で対応を変えているのだ。

その男性がおそらく自分より少し年上であることを考慮したとしても(そもそも年上だろうが年下だろうが関係ないが)、あくまで仕事上のみの繋がりであり、かつ面識もない、たった2~3通メールをやりとりしただけの“人間”に対して「OK、吉川さんの案でいいと思う! それでよろしく!」とメールを送ってくるその男性の神経を、正直、心底疑ってしまう。