「あの女の子」問題
この問題の厄介なところは、こういった女性蔑視が、必ずしも「悪意」の下に行われているわけではない点だと思う。
私は職業柄、編集や校正業を依頼されることもあり、作家やライターが書いた文章に問題がないか、公開前にチェックすることがよくある。以前、とある原稿をチェックしていたとき、私が目を留めたのは「アシスタントの女の子」という言葉だった。もしかすると、この言葉について、特に違和感を抱かない人の方が多いかもしれない。
しかし私は、その原稿を書いた男性のライターを守るためにも、「アシスタントの女の子」という表現のなかにあるかもしれない無意識な女性軽視を公然にさらすわけにはいかないと判断し、一度、本人と話し合うことにした。
「もしもこのアシスタントの性別が男性であった場合に、等しく『アシスタントの男の子』と表現するなら『アシスタントの女の子』という言葉でも問題はないと思いますが、どうでしょうか」と聞いてみると、その男性は「確かに、彼女がもしも男性だったら『男の子』とは絶対に表現しなかった。職場にいる若手の女性を『女の子』と呼ぶことについて違和感を持ったことがなく、この原稿を書くときも、言われるまで全く気が付かなかった」と答えた。
彼は自分のうちにある「無意識な性差別」に驚き、同時に「他にもやってしまっているのではないか」といった危機感を覚えたと話してくれた。
女性をアイコン的に扱うこと
その話とはまた別に、以前、会社経営者の男性から「この業界で、吉川さんを担ぎ上げさせてくださいよ」という申し入れがあった。私は現在、どこの組織にも所属しておらず、個人事業主として企業からの仕事を請けている。
会社という後ろ盾がないとはいえ、他人に対して「あなたを担ぎ上げたい」と意思表示をする人とはそのとき初めて遭遇したため、最初は思惑がよくわからなかった。しかしよくよく話を聞いてみると、どうやら「20代の女性」である私に「外部提携」という形で名ばかりの役職ポストを用意する代わりに“会社の顔”として役に立ってほしい、というのが本音だったらしい。
驚いたのは、相手は私に実務をさせる気もなく、報酬を支払う気もなく、要するに「アイコンとして顔と名前を貸してほしい」だけだったことだ。正直なところ、その会社は世間的に「イメージがいい」とはお世辞にも言えず、この打診は苦し紛れのイメージ戦略だったのだと思う。そのため、この提案に乗れば、自分にまで火の粉が降りかかる結果になるのは最初からわかっており、私にとってはデメリットしかないことは明白であった。
そこで「そのお話、私にとってのメリットはなんでしょうか」と尋ねると、男性は何の疑問も持たずに、有名になれるんだからいいじゃないですか、第二の○○さん(同業の著名な女性作家)として活躍してほしいんですよ、と意気揚々と語った。
私としては、この「担ぎ上げさせてくれ」問題については相手の男性に悪意がなかったとしても「非常に侮辱的な話である」と考えているし、そもそも組織に無関係である若手の女性を、アイコンやアイキャッチとして消費したいだけの話に「あなたを有名にしてあげたい」という免罪符(にもなっていないが)を付加して、さも善意からの提案であるように装うその卑怯な手口に、心底軽蔑している。