7月26日、ロシアのミシュースチン首相が択捉島を訪問し、西側諸国からの投資を呼びかけた。筑波大学人文社会系の中村逸郎教授は「ロシア政府の高官が北方領土の開発に『西側』の協力を訴えたのはこれが初めて。ロシア政府は北方領土をテコにアメリカとの接近を企てている」という――。
2021年7月26日、択捉島で演説するロシアのミシュースチン首相
写真=SPUTNIK/時事通信フォト
2021年7月26日、択捉島で演説するロシアのミシュースチン首相

ロシア首相が北方領土を訪れたワケ

北方領土が、「恐(おそ)ロシア」の襲来を受けているように感じる。領土交渉で日本政府が手をこまねいている間に、プーチン政権のいいようにやられかねない深刻な状況だ。

ロシアのミシュースチン首相が7月26日、択捉島を訪問した際のこと。岸壁に立つミシュースチン氏の背後に大型の新しい漁船が停泊しており、船体の白色が陽光を反射してキラキラ輝いている。わたしがかつてこの場所に立ったとき、茶色に錆びついた廃船寸前の漁船ばかりだったことを考えると、随分と手の込んだ演出だ。

さらに、ミシュースチン氏は灼熱の炎天下でもネクタイをしっかり締め、スーツを着込んでいる。彼を取り囲む20人ほどの地元政治家たちが、ポロシャツなどの軽装であるのとは大違いだ。実はミシュースチン氏には、気概を見せなければならない理由があった。

ロシアでは今年9月に連邦議会選挙を控えており、プーチン大統領にとってコロナ禍での国内産業の復興は重要な選挙対策である。ミシュースチン氏は大統領直々に、択捉島を訪問し北方領土の経済復興の具体的なプランを作成するよう指示されていた。この訪問にはミシュースチン氏にとって政治生命がかかっていたのだ。