※本稿は、島田裕巳『宗教別おもてなしマニュアル』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。
ユダヤ教で食べていいものは「コシェル」と呼ばれる
ユダヤ教は、一神教のなかでもっとも歴史が古い。キリスト教はユダヤ教の改革運動としてはじまるし、イスラム教はさまざまな点でユダヤ教の影響を受けている。イスラム教における食のタブーも、ユダヤ教から受け継いだと言える。
ユダヤ教とイスラム教のタブーは重なるところもあるが、異なっているところもある。
イスラム教では、食べていいものはハラールで、食べてはいけないものはハラームである。
これに対して、ユダヤ教では、食べていいものはコシェル(カシェル、コーシャなどともいう)で、ハラームにあたることばはない。
コシェルは、ユダヤ教徒にとって「ふさわしい」という意味で、食べ物以外にも使われる。
ではなぜ、ユダヤ教でこうした考え方が生まれたのだろうか。
それは神が命じたからである。
「レビ記」というものがある。これは、キリスト教の旧約聖書において、「創世記」、「出エジプト記」の次に載せられている。その後に続くのが、「民数記」と「申命記」である。この五つの文書は「モーセ五書」と呼ばれる。
ただし、旧約聖書はもともとはユダヤ教の聖典である。それをキリスト教も受け継いでいる。ユダヤ教では、モーセ五書はトーラーと呼ばれ、もっとも重要視されている。
「汚れているために食べてはならない動物」が挙げられている
コシェルは、「レビ記」の第11章に出てくる。神は、モーセとその兄アロンに対して、「イスラエルの民に告げてこう言いなさい。地上のあらゆる動物のうちで、あなたたちの食べてよい生き物は、ひづめが分かれ、完全に割れており、しかも反すうするものである。従って反すうするだけか、あるいは、ひづめが分かれただけの生き物は食べてはならない。らくだは反すうするが、ひづめが分かれていないから、汚れたものである」(第2~4節)と告げた。
以下、神は汚れているために食べてはならない動物をあげていく。岩狸、野兎、いのししである。
さらに神は、魚について、ひれやうろこのないものは汚れており、食べてはならないとする。鳥については、鷲、鳶、隼、烏、ふくろうなどが食べてはならないとされる。そして、地を這うものについても食べてはならないとされている。これには爬虫類や昆虫が含まれる。