4年前に統合失調症と診断された60代の母親。薬のおかげで次第に症状は軽くなったが、別の問題が次々に発生。30代の娘は2人の幼子を抱えつつ、仕事を辞めて母親を在宅介護する父親を懸命にサポートするが、これでもかというほど困難が降りかかってきた(後編/全2回)。
揚げあがりの唐揚げ
写真=iStock.com/KPS
※写真はイメージです
【前編のあらすじ】
現在30代の柳井絵美さんが60代の母親の言動がおかしなことに気がついたのは2012年のこと。「あいつら私を見張ってるのよ!」と家の近くの農道に路駐する車のナンバーをメモしたり、柳井さんを自転車泥棒扱いしたり。母親の妄想がエスカレートする中、柳井さんは結婚し、海外挙式を行うが、ハワイでも母親の妄想は改善せず、やっと2017年に心療内科を受診すると、統合失調症と診断された。

料理だけは続けていた認知症の母「から揚げの味が変わった」

2017年9月、統合失調症と診断された60代の母親は処方された薬を飲み始めると少しずつ穏やかになっていった。「昼間、ひとりで家にいると危険だ」と考えたらしく、毎日のように車で30分ほどのところにある自分の姉の家に出かけるようになった。

その途中、自分の姉に「今、宅配便のお兄さんに追跡されている。このままだとお姉さんの家がバレてしまう。バレないようにまいてから向かう」と電話を入れることもしばしばで、母親の姉は、母親の異常さを確信した。

柳井さんは伯母にこれまでのことをすべて話した。

2018年5月、母親は、数年間付き合いがなかった友人の家に突然押しかけたようだ。友人は母親の様子がおかしいことに気づき、家まで送り届けてくれた。どうやら母親は、行き方はわかったが、帰り方がわからなくなってしまったらしい。

お弁当を作り、コーヒーを淹れ、新聞を読む…すべてやめた

また、母親は買い物に行くとレジのピッという音や赤い光におびえるようになり、宅配に切り替えていた。

「母は昔から整理整頓が苦手な人。宅配を利用するようになって、毎回使い切れない量を頼んでいましたし、冷凍のものを冷蔵庫に入れて、よく食品をダメにしていました。私は母のことを、食品管理もできないだらしない人だ……と思っていました」

同年8月のお盆明け。母親は統合失調症を患いながらも長年続けてきた父親(夫)と妹(次女)の弁当作りを突然やめてしまう。また、これと同じタイミングで、毎朝の習慣だったコーヒーを淹れ、新聞を読むこともぱったりとやめてしまった。

夕飯だけは作り続けていた母親だが、異変があった。それは、得意のから揚げの登場回数が増え、その味も安定しなくなったことだ。から揚げ以外の料理も、食べ慣れてきた母の料理の味とは違うものになっていった。