37歳の音楽プロデューサー・岡嶋かな多さんは、これまで提供した楽曲が100回以上の「オリコン1位」を獲得している。安室奈美恵、嵐、BTS、TWICEなどの楽曲を手掛けているが、当初は自身もステージで歌うシンガーソングライターだった。なぜ音楽プロデューサーという「黒子」に徹するようになったのか。フリーライターの川内イオさんが取材した――。
音楽プロデューサー・岡嶋かな多さん
筆者撮影
音楽プロデューサー・岡嶋かな多さん

1万人の熱狂のなかで流した涙

2015年12月15日。この日、東京の国立代々木競技場第一体育館で、安室奈美恵のライブが開催された。全国15カ所で44公演が行われた全国ツアー「namie amuro LIVEGENIC 2015-2016」の一夜だった。

延べ約40万人を動員したこのツアーのなかでも、ファンにとって代々木は特別なものになった。同年9月に安室奈美恵とコラボしたシングル『REVOLUTION』をリリースし、大きな話題を呼んだCrystal Kayがサプライズで登場したのだ。

照明が落ち、闇に包まれた会場。ざわめきのなか、一瞬、Crystal Kayの映像が映し出される。再び暗転するとアップテンポな曲のイントロが流れ始め、次の瞬間、安室奈美恵とCrystal Kayが舞台に姿を現した。ふたりにスポットライトが当たった瞬間、悲鳴にも近い「キャーッ」という声援があがり、およそ1万人のファンで埋まった会場のボルテージが最高潮に達した。

会場の観客席からふたりを見つめていた岡嶋かな多さんは、Crystal Kayが「We got wings」と歌い始める前から、泣いていた。涙が溢れて、溢れて、止まらなかった。童顔で小柄な彼女は完全にファンに溶け込んでいたが、『REVOLUTION』の作詞を手掛けた音楽プロデューサーである。

16歳から音楽一筋に生きてきた彼女は、バンドのボーカルとして全国を巡り、世界を夢見たこともあった。自分が表舞台に立つのか、黒子になるのか、思い悩んだ時期もある。しかしこの日、自分が書いた歌詞を想像以上の完成度で歌い上げ、会場を熱狂させたふたりを前にして、彼女は吹っ切れた。

「私が小さな机で書いてる一文字、一文字を、こんなに素敵な表現者が何万人、何百万人に届けてくれる。これ以上の仕事ってないよね。私が作る曲や歌詞を聞いて、今日も頑張ろう、今日も生きようって思ってくれたら嬉しいし、最高の表現者を通してそれが実現できるなら、私にとってそれ以上の幸せはない」

「オリコン1位100回超え」のヒットメーカー

この日に流した涙は雨のように、彼女の才能に降り注ぎ、次々と大きな花を咲かせた。

2017年、作詞作曲を務めた三浦大知の『EXCITE』でレコード大賞・優秀作品賞を受賞。同年、同じく作詞・作曲を担当したBTSの『Crystal Snow』が世界17カ国で売上ランキング1位に。翌年には、全45曲中15曲のボーカルディレクションを担った安室奈美恵のベストアルバム『Finally』の売り上げが、200万枚を超えた。

音楽プロデューサー・岡嶋かな多さん
写真=岡嶋かな多さん提供
『EXCITE』でレコード大賞・優秀作品賞を受賞した三浦大知と岡嶋さん

「CDが売れない時代」と言われるなか、昨年には、作詞を手がけたSnowmanの『KISSIN' MY LIPS』がミリオンセラーを記録している。

オリコン1位の獲得が100回(※)を超えるヒットメーカー、岡嶋かな多。

これは、何度も泣いて、それでも全力で突っ走り、100メートルハードル走のように次々と現れる壁を飛び越えず、体当たりで突破してきた彼女の、知られざる物語。

※編集部註:オリコンのウィークリーシングルランキング、ウィークリーアルバムランキング、DVDランキングで1位を記録したタイトルに収録された合計楽曲数(2008年9月~2021年6月)。初出時の表記に一部誤りがありました。(7月28日20時10分追記)