中国の国勢調査は10年に1度、実施される。2010年の前回調査時点でもすでに少子化は深刻であり規制の一部緩和へとつながったわけだが、2020年の調査によって状況がさらに悪化していることが確認された。こうしてついに中国政府も重い腰をあげることとなった。

方針転換をしても人口減は免れない

では、政府方針の転換で少子化は改善するのだろうか。

少子化につながる要因としては、教育コストや不動産価格が高すぎて子どもを育てる金銭的ゆとりがないことが指摘されている。中国政府は「決定」において、これらの問題について支援する方針を表明している。しかし、問題はそれだけではない。

晩婚化や生活スタイルの変化など多くの要因が関連しており、世界的に見ても一度低下した出生率を回復させた事例はほとんどない。

他国と同様の取り組みでは効果を上げられないとするならば、政府が強力な力を持つ中国ならではの対策もありうるかもしれない。

ある中国の人口研究者は「子ども1人当たり100万元(約1700万円)の支援をすべき」と提言しているし、一部では「3人以上生んだ家庭の子どもには大学入試で加点すべき」という不思議な提案もあった。人生の一大事である大学入試で有利に働くとあらば、無理にでも子どもを産むインセンティブが働くのではないかというわけだ。

こうした奇想天外な対策でもしないかぎり、中国の出生率が回復することはないだろう。近い将来、人口減を迎えることは確実だろう。

人口増以外の“成長エンジン”を見いだすべき

いや、一部ではすでに人口減は始まっているとの疑惑の声もあがっている。毎年1月に中国当局は人口統計を発表するが、今年は国勢調査の発表にあわせるとして見送られた。その国勢調査の結果も当初予定されていた4月末から3週間近い延期となった。この間に英紙フィナンシャル・タイムズは「総人口14億人割れという衝撃的な結果が出たため、延期された」との関係者のリークを報じている。

この報道は“誤報”となったわけだが、釈然としない印象を残す。というのも、2020年の出生数は1200万人。4年前の約3分の2という激減ぶりだ。過去の出生統計を足しあわせると、フィナンシャル・タイムズの指摘通り14億人割れとなる。

中国当局は過小だった過去の出生統計を修正したためと説明しているが、中国のネットでは責任逃れのための隠蔽工作ではとの疑念の声もあがっている。

国勢調査の数字が真実かどうかを確かめることは難しいが、中国の人口が増加から減少への曲がり角を迎えていることは間違いない。この転換は中国経済にとって決定的に重要だ。

改革開放政策以来、40年以上にわたり中国は高成長を享受してきたが、その背景にあったのは潤沢な労働力の供給と人口増に支えられた未来の成長市場であった。この要素が失われつつあるいま、これまでとは異なる成長の方法を模索する必要がある。

人口増以外の成長エンジンはイノベーションしかない。中国政府は教育レベルの向上やさまざまなイノベーション支援策によって、さらなる成長を継続しようという未来図を描いているが、その道がたやすいものではないことは一足先に人口減社会に突入した我々日本人がよく理解している。

【関連記事】
習近平指導部は中華人民共和国を「自分たちの所有物」と考えている
元海自特殊部隊員が語る「中国が尖閣諸島に手を出せない理由」
子ども3人いる女性が一番不幸「産むほど幸福度が下がる」育児のリアル
「中国を終身支配する」習近平が100周年式典で"毛沢東と同じ服装"で現れた本当の意味
中国共産党・習近平のジャック・マー叩きがもたらす"ある誤算"