個々の危機管理力が光った東日本大震災

宮城県に本社を置くアイリスオーヤマにとっては2011年の東日本大震災は忘れることができない。

同社は電池、毛布、IHコンロといった生活用品、コメなどの食料、そして防災用品を扱っている。生活のライフラインでもある。

震災の直後から社員たちはフル活動した。家族を自宅に置いて出社し、後片付け、生活用品の積み出し、輸送に力を尽くす。余震のなか設備が壊れた物流倉庫を復旧させるため、不眠不休で働き、4日間で元の状態に戻した。足りないガソリンを節約するため、社員は一台に5人ずつ相乗りして出社した。こうした危機管理、危機対応は緊急マニュアルに書かれていたものではない。マニュアルは大して役に立たず、社員たちはそれぞれの現場で知恵を出して解決していった。

「クビになるかもしれません、でも、いいんです」

グループ企業のダイシンはホームセンターを運営している。翌日から営業を開始したが、停電していたのでレジを打つことができなかった。それでも店を開けた。従業員は入り口に来た客から必要なものを聞き、店内から探し出して販売した。手持ちの現金がなかった被災者には名前を書いてもらい、品物を手渡した。代金は後ですべて戻ってきた。

気仙沼けせんぬま店では寒さのなか、客が列を作った。様子を見た店長は現場の判断で手持ちの灯油を放出。一人10リットルまで無料で配ったという。その店長は取材に来ていたテレビ局の記者にこう言った。

「クビになるかもしれません。でも、いいんです」

東日本大震災の津波被害
写真=iStock.com/enase
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やり取りをテレビで見た大山は店長の対応に感激した。

「私はつねに相手の立場に立って考えよと言ってきた。それが『ユーザーイン』という哲学だ。その哲学を身につけ、自分自身で判断し、動いた社員たちを誇りに思う」

アイリスオーヤマの力は危機になると発揮される。危機管理に強い。

どんな会社も危機に陥る。商品が売れなくなることはある。災害、感染症もやってくる。誰もが同じ条件で立ち向かわなくてはならない。

そんなとき、経営者はどうすればいいのか。大山は知っていた。

危機感のない経営者との違いはなにか

彼は語る。

「苦難を味わった経営者が皆、強い危機感を持つかというとそうではない。差は何か。それは人生観です。こういう言い方をするのは失礼かもしれませんが、経営者の人生観によって、会社をどこまで発展させられるかが決まるというのが私の本音です。

株式上場で多額の資産を手にした経営者が大豪邸を建て、ぜいたく三昧の暮らしをしているという話を聞くことがあります。それも人生のあり方ですから、否定はしない」