「この社長の下だったら頑張ってみるか」

大山ブロー工業所は成長していった。19歳で工場を継いでから8年後、500万円だった売り上げは7億6000万円になった。下請けから脱却するという決断の結果だ。同社はサプライヤーから業界向けプラスチック製品の開発メーカーとなったのである。

大山は社内を一致団結させるため、社員と密なコミュニケーションを取り、自らのことよりも、社員のことを考えた。上場しないという決断の背景には、「まず社員のことを考える」という哲学がある。その哲学が芽生えたのが会社の創業期だった。

工場で機械をチェックする2人の技術者
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当時を思い出して、こう語っている。

「仕事が終わると、よく社員を私の家に招き、母の手料理を振る舞いました。仕事中だけでなく、仕事以外でも社員といろいろな話をしていると『小さな会社だし、給料は安いが、この社長の下だったら頑張ってみるか』と思ってくれるようになります」

「この社長の下だったら頑張ってみるか」が大切だ。

ベンチャー企業、中小企業の社長が部下に対して見せる生活態度とはこれしかない。

成功した後、自分だけが高級車に乗ったり、賛沢なレストランへ行ったりする社長は部下の気持ちを考えていない。そういう社長と長く働きたいと思う社員はいない。

「社長の理想像」を描いて自分を変えていく

大山は若くして会社を継いだから、他社で働いた経験がなかった。そのため、「自分が会社員だったら、どんな会社に勤めたいか」を考えることにした。また、「自分が部下だったら、どんな社長の下で働きたいか」を頭に描いた。「社長の理想像」を組み立てて、その像に向かって自分を変えていったのである。

「社員に情をかけることでした。豪華な食事を一回だけごちそうしても、心は動きません。『うちの社長は何が目的なんだろう』と身構えるだけです。そうではなく、毎日毎日情をかける。情の深さは接触回数に比例するのです」

起業家になるためには構想力、説得力、実践力、結果責任の4つが必要だと彼は言っている。そして、もっとも大切なのが構想力だと断言している。

「起業家には、自己の利益に根差した願望ではなく、市場に何を提供し、社員と共にどう成長し、社会に貢献するかという構想が必要なのです」

プラスチック製品の開発、社員のために理想を追求する。このふたつは彼の構想から生まれたものだ。