“世界で唯一”なぜ日本は女性よりも男性がネガティブな感情を抱くのか
なぜ、日本人の男性は女性よりもネガティブな感情を抱きやすいのか。
理由として考えられるのは、女性が男性と比べて個人的、社会的に尊重されていてネガティブな感情に陥る場合が少なくなっているから、あるいは、男性だけがネガティブな感情に陥りがちな特殊な社会環境があるか、のどちらかであろう。
私は、後者の側面が大きいと考えている。
本連載の4月7日の記事でも述べた通り、日本では、相続や選挙権に関する制度的な男女平等が戦後実現したのと並行して、現代では、かつてに比べて儒教道徳から女性がかなり解放されたのに対して、男性のほうは「男は一家の大黒柱」あるいは「男はか弱い女性を守らなければならない」といったような旧い道徳観になお縛られていることが多いから、こうした結果が生じているのではないかと感じるが、どうだろうか。男は、男(自分)への期待感が大きい。それだけ幸福度を感じにくくなっているのである。
なお、同じような状況にある韓国でも(日本の男性ほどネガティブな感情を抱いていないが)、やはり、OECD諸国の中でネガティブ感情度の男女比が3位と高い点もこの点を裏づけていると考えられる。
世界的に権威があるはずの「OECD幸福度白書」のこのデータを日本のジェンダー論者が参照することは、まず、ないだろう。しかし、男性が幸福になれなければ女性も幸福になれないと仮定した場合、図表2で客観的に表した深い真実を直視しない限り、日本における本当の男女平等は永遠に実現できないかもしれない。
高齢者、低学歴者ほど幸福度が低いという通例が当てはまらない日本人
次に、年齢差とネガティブ感情度(幸福度)に関してみていこう(図表3参照)。
表の「●」は50歳以上、「ー」は30~49歳、「▲」は15~29歳の数値だ(数値が高いほどネガティブ感情度が高い)。男女差ほど決定的ではないが、世界的には、若者のほうが高齢者よりネガティブ感情度が低いのが通例である。若者には未来があり、死が遠くない高齢者は病苦で苦しむ者も多いのであるから当然ともいえる。
年齢差が大きい国はといえば、図の左側の国、すなわち途上国的な性格を残している国である。途上国の高齢者は生活していくだけでも心労が絶えないのである。一方、図の右側、すなわち、日本を含む、比較的所得水準の高い国では年齢差は目立たなくなる。社会保障が充実して、高齢者でも生活苦や病苦で悩むことが少なくなるからである。
こういう見方でグラフを眺めると、若者だけで比較した場合、各国のネガティブ感情度は、国による違いがかなり小さいことに気がつく。どんなに生活が苦しくても若者には未来があるのである。一方、高齢者のネガティブ感情度の差は大きく、高所得国ほど低くなっていることが分かる(左端のリトアニアは30超、日本は10弱)。
そして、働き盛りの年齢(「―」の数値)では、ネガティブ感情度は若者と高齢者の中間である場合が一般的である。
しかし、米国より右に位置する国では、おおむね、若者や高齢者の両方より働き盛り年齢のネガティブ感情度のほうが高くなる傾向にある。これは、子どもや高齢者を大切にする社会保障の発達した国でも、仕事や子育て、介護などに伴う働き盛りの年齢の悩みは消えない(あるいはむしろ大きくなる)からだと考えられる。