「上級国民」「トヨタのせいにする老いぼれ」飯塚被告への非難の高まり
旧通産省工業技術院の元院長・飯塚幸三被告(90)は2019年4月に東京・池袋で車を暴走させ、次々と人をはねて死傷者11人の大事故を起こした。
妻(当時31)と娘(同3)を亡くした夫(34)が、6月21日、東京地方裁判所で行われた飯塚被告の過失運転致死傷罪を問う公判で、被害者遺族として詰め寄った際も、過失を一切認めず、無罪を主張する姿に非難が高まっている。
確かに、これだけの事故を起こして収監されなかったこともふくめ、「飯塚被告=殺人犯」「上級国民」「トヨタの責任にして自らの非を認めない老いぼれ」と多くの人が思うのも無理はないかもしれない。だが、医師である私はこの件で別の心配をしている。それは、90歳の飯塚被告を象徴とする高齢者への差別意識が高まるのではないかということだ。
この手の事件を起こした人間に強い処罰感情が起こるのは当然のことだが、有罪になればそれでいい、というわけではないだろう。再発防止のための法改正などをすべきケースもある。
高齢者ドライバーの死亡事故は減り続けている
近年、高齢者の違反運転や交通事故がクローズアップされることで、「高齢者は免許返納すべし」という声が高まり、2017年に道路交通法が改正された。75歳以上の人は運転免許更新時に「認知機能検査」が義務付けられ、2020年の道路交通法改正では運転技能の確認のための実車試験も追加された。
飯塚被告が事故を起こした2019年には高齢者の免許の自主返納が進んだ。85歳以上の返納率は2018年には11.75%だったが、翌年は14.41%。順調に返納率が上がっているが、飯塚被告の動向もあり、「高齢者=危険」だから車を取り上げてしまえ、という人が潜在的に多いように思える。
警察庁「交通安全白書」を調べてみると、運転手が75歳以上、もしくは80歳以上の場合の死亡事故はほかの年齢層と比べても多い。2009年の運転者10万人当たりの死亡事故件数は80歳以上が15.2件、75歳以上は13.0件だったが、2019年には80歳以上が9.8件、75歳以上が6.9件に対し、75歳未満が運転者の場合は3.1件となっている。80歳以上の高齢者であっても死亡事故を起こす確率は1万人に1人以下であり、高齢者の死亡事故は減り続けていることもわかる。
高齢者の運転が危険という啓蒙のために安全意識が高まったのと、さまざまな安全装置が開発され、サポカーも普及し、自動車の安全性能が向上したことによるのだろう。